第一章 2 はじまりのまち 告げられる事実 | 異世界転生したら最弱ステータスの無装備の冒険者だった件について

「起きろ!おい!起きやがれ!」

乱暴な声で目を覚ました。

ここは…どこだ?

俺は確かレオパとたたかって、どうやら寝てしまったらしい。

「おい!なんとか言え!お前はなんだ?ここで全裸で何をしていた?」

日本語で話しかけてきた。異世界の公用語が日本語であることに疑問を覚えつつ、母国語が通じ少しほっとしながら答える。

「軽自動車に轢かれて、気づいたらここにいました。さっきまでレオパと戦っていて、、、」

言いながら声の主を見る。

少し古い百姓のような服装だが、見た目は決して悪くない。

精悍な顔つきのひげを生やした青年だ。

隆々とした筋肉が、鍛えているのを物語っている。

そして俺は集落の中へ運び込まれたらしい。

「軽自動車?なんだそれは?お前はどこから来た?名前は?何をしている者だ?」

一気に質問されてうっとおしい。

そう思い俺は、意識を失っている間もずっと握りしめていた紙を渡した。これで少しはわかってくれるだろう。

 

すると、紙を受け取った青年が目を見開き、俺にひれ伏した。

突然のことに俺はなんの対応もできない。

「先ほどは乱暴に扱ってしまい、大変失礼いたしました。

私はオオブと申します。この集落を実質まとめている者です。

こちらの紙をお持ちということは、あなた様は女神様より直接こちらにお招きいただいた、“選ばれし者”とは知らず。」

何かとても壮大な話になっている、難しいことはよくわからないので、説明を求めるべく続きを促す。俺は心の広い人間なので、さっき乱暴に扱われたことは全然気にしていない。

「選ばれし者は、神託の紙を伴い異世界より降り立ち、世界において偉大なる何かを成すだろう、という言い伝えがあります。この紙と、先ほどの軽自動車とかいう耳慣れない言葉。こちらが証拠となりましょう。選ばれし者は様々なところに降り立ち、偉業を残したと聞いています。この街に来てくださり何といえばいいか…。」

オオブは感極まったように膝をつき、俺を見、もう一度紙を見る。

「な、なんと!あなた様は二つ名付きでいらっしゃいますか…!しかも名前に♰が…!これは世界でも本当に選ばれた強者しか持つことができない伝説の…!」

オオブが何かよくわからないことを言っている。俺の名前は強者の代名詞のような名前らしい。もしかして俺のステータスも、実はとても強かったりするのだろうか。

オオブが興奮した様子で話し続ける。

「あなた様は冒険者でいらっしゃるのですね!きっといらしたばかりなので何も身に着けずに倒れてらしたんですね…選ばれし者がおかわいそうに…。どれどれレベルは…1?」

急にオオブが怪訝そうな口ぶりになる。

どうしたのだろうか。

「なんだと…?HP10の、、、他もALL1?そんなことが果たしてあり得るのか…?な、装備不可だと⁉なるほど、そのせいでこやつに下着をはかせようとしても下着のほうが逃げてしまったのか…私一人ではどうしようもないかもしれない。父さん!」

オオブはひとしきりぶつぶつつぶやいた後、父を呼びに走って行ってしまった。

俺のステータスはやはり異常らしい。

 

足音が聞こえ、オオブが戻ってきた。父親らしき人物と一緒だ。

息を切らしながら父らしき者に説明をする。

「父さん!村の外で倒れてたヤツが選ばれし者だったんだ!

名前も!二つ名もある!ここまでは最強レベルなんだ!

でも見てくれ!この神託の紙を!弱すぎないか!明らかに!

こんな奴が選ばれし者なのか?神は間違えたのではないか?

名前だけ大仰で他はその辺の草原のモンスターにすら勝てやしない!しかも装備ができないから一生全裸で生きていくしかない!とんだ厄介な選ばれし者なんだ!僕はどうしたらいいんだ⁉」

黙って聞いているとえらい言われようである。

父さんと言われた男が姿を現す。

オオブがいいおじさんになったような外見である。

「先程はオオブが失礼しました。村長のキョーワと申します。あなたは選ばれし者の信託を持ち、この世に名を残す英雄と同じ2つ名もお持ちだ。選ばれし者であることは疑いようもない。」

おいおい、俺の名はこの世界での一般的な名前じゃないのかよ。ただ厨二病なだけじゃないか。

しかし、と村長は続ける。

「あなたのステータスはあまりにも貧相すぎる。この当たりでいちばん弱い、リザードトカゲモドキにも負けるかもしれない弱さだ。こぶし一撃を叩き込むために見えないダメージがあなたのその身体に蓄積される。リザードトカゲモドキが攻撃してこないなどという超幸運があれば、あるいは数時間かけて倒せるのかもしれないが……」

リザードトカゲモドキというのはあのレオパみたいなものだろうか?気になったので尋ねてみた。

「あの、もしかしてそれ、これくらいの大きさの、大人しめの……」

「もしや、リザードトカゲモドキを倒したとでも言うのか!?」

驚く村長。そんなに驚くことなのか?

「父さん。この者の隣には、ボロボロで息絶えたリザードトカゲモドキが一匹転がっていました。」

すかさず口を挟むオオブ。

「なんと……あやつをあなたのステータスで倒そうと思うと3時間はかかるはず……」

「あの、ちなみにオオブさん達がやれば、どれくらいかかるんですか……?」

「この集落の大体の者は一撃で倒せるな。」

俺は絶望した。

まだ心のどこかで期待していたのかもしれない。

これが弱くないって。

ところがどうだ。憧れの異世界に転生して、カッコイイ2つ名もついて、でも俺は、この世界の雑魚モンスターに勝てないかもしれないほど弱い。

「じゃあ、俺はどうすれば……?」

絶望しながら、オオブとキョーワに問いかけた。

「父さん、このまま外に出すのはかわいそうだ。すぐ死んでしまうよ。仮にも一応選ばれし者だし、暫くここに居てもらおうよ」

「そうだな、オオブ。この者でも着られるものを用意し、何か仕事を見繕ってやろう。選ばれし者よ、それでも良いか?」

弱すぎて追放されると思っていた俺は、嬉しさに涙した。

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「今日は疲れただろう。取り敢えずゆっくり休むと良い。」

そう言ってオオブとキョーワは部屋を出ていった。

部屋を出る時、「父さん!装備不可の者が着られるものの手配というのは非常に難しいんじゃないか?」などと聞こえたが、俺が心配しても何も出来ない。

絶望を胸に、俺はベッドから天井を見上げため息をついた。

一体この先、どんな生活が待っているのだろうか。