プロローグ | 異世界転生したら最弱ステータスの無装備の冒険者だった件について
俺は西谷。少し前までは学生だったが今はフリーターだ。
最近は巨に…ゴホン、素敵な彼女もでき、アルバイトではそれなりの地位を築き、何かと充実した生活を送っている。
そんなある日のことだ。
俺は自分に告げられた言葉をそのまま信じることが出来なかった。
ここ暫く、彼女と些細なことですれ違うことが多かった。俺は友達も多いし趣味も大切だ。確かに彼女と接する時間は減っていたかもしれない。
しかし、夜は必ず同じ部屋で寝ていたし、夜飯も作ってあげていた。
仕事で人手が足りないらしく、家事にまで手が回らなさそうな彼女に代わって、俺がペットの世話や簡単な炊事をしてあげていたのに。
「別れよう」
初めてできた彼女で、俺の初めてをあげた人。
その衝撃は、あまりにも大きかった。
釈然としないままに俺は彼女から事務的に言われるがまま、彼女の家を後にした。
買うために便宜を図って貰った原付だけを持って。
それから数日。もう連絡を取らないであろうと思っていた彼女から連絡が来た。彼女というかもう元カノか……。
「原付の名義変更に必要なので、ナンバーを教えてください。」
何を言っているのか難しいことはよくわからない。原付は俺のモノではないのか?そんな思いが俺の中を駆け巡る。
よくわからないので、とりあえず仕事に行ってから考えるとしよう。
そう思って数日がたった。
「……やられた。」
仕事が終わって帰ろうとすると、俺の原付からナンバープレートがなくなっていた。
「くそっ!絶対にあいつの仕業だ!」
俺は怒りに燃え、その矛先を全て原付にぶつけた。
国道を全力で走った。
近畿から岩手にまで行ってしまうような勢いで、ナンバープレートのない原付に乗って。
「!」
怒りのせいで、信号が赤であることに気づかずに、俺は交差点に突っ込んだ。
気づけば俺は宙に浮いていた。
「僕が何をしたって言うんだよ……」
そう言って俺の意識はなくなった。
ここは……どこだ?
目覚めると俺は見覚えのない場所にいた。だだっ広い草原、少し離れたところには小さな集落、山や森も見える。
動物には多少自信があるが、見たことの無い鳥が飛んでいたり、聞いたこともない動物の鳴き声が聞こえる。
困惑していると、頭の中に声が聞こえた。
(聞こえますか…今あなたの脳内に直接語りかけています…)
某子供番組のおねいさんの声によく似ていた。
なんなんだよ唐突に。もしかして流行りの異世界転生か?
(よくお察しで……しかし察しの良いガキは嫌いです…)
おいおいこれは、もしかしなくても、俺がこれから無双していくパターンだよな?期待しちゃってもいいよな?
(あなたには、これからこの世界で冒険者として過ごして頂きます……
あなたのステータスや装備は運で決まります……
気持ちが固まりましたら、ポケットに入っている紙に手を当ててみてください……
では、ご武運を)
おい!待てよ!
最初はガチャみたいなもんなのか?
聞きたいことがいっぱいあったが、声はもう聞こえない。
まあ俺はガチャ運は良い方だ。
開き直ってポケットをまさぐった。
それにしてもなんだこの服は。異様に薄くて端がほつれている。
ポケットから薄汚れた小さな紙を取り出し、片手をかざした。
「俺の未来を示せ!」
折角の異世界転生なので、少し格好をつけながら。
瞬間、
「は!?」
服がなくなった気がした。
「なにがあったの!?」
一瞬で、俺は全裸になっていた。
気が動転し、恥ずかしくなってしゃがみこむ。
先程の衝撃で落としてしまった紙が目に入った。
Name: 紅の探求者(紅のDeparture)kureha✝︎紅葉(

)
Age: 14
Race:人間
job:冒険者(他適正なし)
Status:Lv1(max1,上限突破不可)
HP:10
MP:2
攻撃:1
防御:1
魔力:1
敏捷:1
装備:不可
 
 
俺は絶句した。地球で様々なゲームを齧った僕ならわかる。
とんでもない雑魚キャラを引いてしまったようだ。
リセマラをしない、が心情でも、リセマラをしたくなるような。
どう足掻いても生きていけそうにない、最弱ステータス無装備の冒険者として。しかも無装備どころか装備すらできないなんて。挙句の果てにリセットができない世界に生まれ変わってしまったらしい。
「僕が何をしたって言うんだよおーちくしょうーこのやろぉー」
僕は空に向かって吠えた。
こんな暴挙が許されてなるものか。
こんな世界を、野放しにしては置けない。
意を決して僕は、向こうに見える集落へ向けて足を踏み出した。全裸で。