前回も、サルの実験で、

決まった訓練をするというのではなく

自由に生活していて、特定のシナプスを

増強させた、という話を書きました


『知らぬ間にリハビリ 自由行動下でシナプス増強させることに成功(2)』




その続きです



プラスサイエンス ~ 科学が気になるアナタのために-人工神経接続



(生理研のプレスリリースより)





今回の実験では

脳の運動野のニューロンが活動してから

どれくらい遅らせて脊髄のシナプスに

電気刺激をすればよいのかも

詳細に調べられていまして、

それが 0.012~0.025秒くらいだった

とのこと



それより早くてもダメ、遅くてもダメ


特に、早過ぎると逆に

シナプスが弱くなってしまったそうです



このシナプス増強に適切な時間は

どうやって決まるのでしょうか?



神経線維を情報が伝わる速さは

一番速いAα線維で 100m/s



脳の運動野から、脊髄にある手の

運動ニューロンまで 50cm とすると

0.005秒で到達することになります



それでは早過ぎるのですね



シナプスが増強されるときには

LTP(長期増強)という現象が起きる

必要もありまして、

単純に最初の情報が来るタイミングで

電気刺激すればよいというわけでも

ありません



ご参考:

拙ブログ『記憶の分子メカニズム? LTP概略』


拙ブログ『神経情報伝達をスムーズに LTP と NMDA受容体』




それから、

筋肉を動かした後の情報も大事です



例えば、

厚手のマグカップを持ち上げるときと

紙コップを持ち上げるときとでは、

マグカップや紙コップに触れる指先の

力加減が違いますね



これは、

触れた直後の反発力を皮膚感覚で感じて

対象物の硬さや重さを判断して

力加減をしているのです



もちろん、

対象物を見て、事前にある程度の予測を

立てている要素もありますが



いろいろと複雑なプロセスが

瞬時に関わるわけで、

まだ詳細なメカニズムは

分かっていませんが、

今回のような状況でのシナプス増強には

0.02秒くらいの遅れが必要である

ということはわかっていました



ただ、

実際に自由に動き回るサルを使って

実証した、というのが

今回の実験の新しい点です



これをすぐにでも応用したいところ

ではありますが、

そう簡単にはいきません



まず、

脳の運動野のニューロンの活動を

高精度に記録するのが難しい



脳に電極を刺すと高精度な情報は

検知できるのですが、

長時間にわたって針電極を

刺したままにしておくのは

衛生上の管理が難しいです



骨を取らずに、つまり、傷をつけずに

脳の電気的活動を高精度に計測するのは

現在の技術では不可能です



例えば、

脳波は頭皮上に皿電極を置くだけで

記録できますから、

傷を付けずに済みます



しかし、

脳波の一つであるアルファ波は10Hzで

その波の山と山の間隔が 0.1秒ですから

0.02秒というのが

どれくらい短い時間かがお分かり

いただけるかと思います



いろいろ課題はありますが、

もし、

脳に電極を刺して記録するくらい

高精度に脳の活動が記録できて、

皮膚上から、脊髄の特定のシナプスを

刺激する技術が開発されれば

日常生活を送るだけでリハビリが進む

ということが実現する


そんな夢に一歩近付いたのが

今回の実験ということでした。




生理学研究所のプレスリリース
「脳と脊髄の神経のつながりを人工的に 強化することに成功」




Nishimura Y, et al. (2013)
“Spike-timing dependent plasticity in primate corticospinal connections induced during free behavior”
Neuron







(おしまい)





文:生塩研一





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