前回は、トリカブト毒の
アコニチンを紹介しました
Na チャネルを開放してしまうのでしたね
『トリカブト毒(1) ~ 神経毒からニューロンの機能をみる(16)』
もう30年近く前になりますが、
このトリカブトを使った
保険金殺人事件が起きました
「トリカブト保険金殺人事件」
1986年5月19日
新婚夫婦が那覇に到着
夫で犯人の A と その妻 B
妻 B には保険会社に
合計1億8千万円の保険金が
掛けられていました
翌20日の正午、夫 A は
仕事のため大阪に戻ると言って別れ
妻 B は友人3人と石垣島に
午後1時20分頃、
妻 B は具合が悪くなり
島内の病院に搬送されるも死亡
行政解剖で、急性心筋梗塞と診断
保険金支払で契約上の問題があり
夫 A は民事訴訟を起こします
妻 B の血液からトリカブト毒が検出
死因がトリカブト毒中毒と判明し
夫 A は訴訟を取り下げました
その5年後の、1991年7月1日
警視庁は
夫 A を殺人と詐欺未遂で逮捕
夫 A はトリカブトを購入したことが
判明したものの
トリカブト毒は即効性があるため、
妻 B は 夫 A と分かれてから
1-2時間後に死亡しているということで
夫 A はアリバイを主張
実は、これには
巧妙なトリックが仕掛けられていました
夫 A は事前にクサフグを大量購入
そして、
保存されていた 妻 B の血液からは
フグ毒のテトロドトキシンが検出
どういうことでしょうか?
以前、
このトリカブト毒と逆の作用の毒素を
ご紹介したのを覚えておられますか?
そうです
フグ毒の テトロドトキシン
Na イオンが流入する穴である
Na チャネルを外から塞いでしまう
のでしたね
『フグ毒・テトロドトキシン ~神経毒からニューロンの機能をみる(3)』
Na チャネルをこじ開けるトリカブト毒と
Na チャネルを閉じるフグ毒を
同時に与えると、どうなるでしょうか?
マウスやラットで検証実験がされました
ある実験では、
トリカブト毒だけなら
全個体が20分以内に死亡
トリカブト毒にフグ毒を少し加えると
4割の個体が死亡したのは
1時間以上経ってから
フグ毒をもう少し増やしても
トリカブト毒だけよりは
生存時間が長かったとのこと
反対の作用をもつ毒を
同時に与えることで
作用がぶつかり合って
効果が出るのが遅れたのです
これを拮抗作用と言います
フグ毒の血中濃度が減るのは
トリカブト毒より短いので
フグ毒が減った時点で
トリカブト毒が効いてきます
これで、
夫 A のアリバイは崩れました
夫 A のその後ですが、
2000年、無期懲役が確定し
2012年、大阪医療刑務所で病死
それぞれ強力な毒素ですが
逆の作用をもつことで
同時に与えて効果を遅らせるという
知能的犯行でしたが
物的証拠と科学的捜査によって
真実が暴かれたのでした
長らく続いた神経毒シリーズは
今回でとりあえず終わりとします
明日は何を書きましょうかね
(おしまい)
文:生塩研一
お読みいただきまして、ありがとうございました。
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