前回は
神経毒・サリンの導入的な話を
書きましたので、その続きを
『サリン(1) ~ 神経毒からニューロンの機能をみる(9)』
正常な神経系では
ニューロンとニューロンの間の
シナプスに放出された
神経伝達物質のアセチルコリンは
アセチルコリンエステラーゼ
という酵素によってすぐに分解されます
そうしないと
情報を送る先の神経や筋肉を
興奮させっぱなしになるからです
アセチルコリンエステラーゼは
セリン残基にアセチルコリンを
取り込んで加水分解します
アセチルコリンエステラーゼは
サリンの構造がアセチルコリンに
似ているため
間違ってサリンを取り込んで
変性してしまって
機能できなくなります
つまり、アセチルコリンが
分解されなくなるのです
すると、
先ほど書きましたように
筋肉などを興奮させ続けて
死に至らしめてしまいます
では、
サリンが体内に取り込まれたら
どうしようもないのでしょうか?
時間稼ぎの方法が2つあります
第一の方法では
アセチルコリンがシナプスで
漂っていても、結合先の
ニューロンや筋肉にある受容体に
結合しなければ問題ない
という点に着目し
受容体を塞いでくれる物質を投与します
その物質とは、アトロピン
アトロピンは
アセチルコリンが筋線維の受容体に
結合するのを邪魔してくれます
なかなか分解されずに
シナプスで漂っているアセチルコリンが
筋線維などの受容体に
くっつかないようにしてくれます
アトロピンに
頑張ってもらっている間に
分解酵素である
アセチルコリンエステラーゼが
新たに体内で合成されるのを待ちます
時間稼ぎの第2の方法では
アセチルコリンエステラーゼに
くっついてしまったサリンを切り離し
分解する能力を復活させます
これを実現してくれるのが
プラリドキシムヨウ化メチル(PAM)
Pralidoxime iodide
オキシム剤とも呼ばれます
1995年の地下鉄サリン事件で
サリンの特効薬として有名になりました
ただし、
サリンが体内に入って時間が経つと
サリンがくっついた、
アセチルコリンエステラーゼが
エイジング(老化)して
PAMによる切り離しができなくなります
全体の1/2がエイジングするのに
5時間と言われますから
PAMの投与は
サリンに晒されてから5時間以内に
しないといけません
このような時間稼ぎをしながら
アセチルコリンエステラーゼの
合成を待ちます
サリンの作用、
お分かりいただけましたでしょうか
(つづく)
文:生塩研一
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