彼の腕を押さえつけて、満面の笑みでたずねる。

「お前、帰ったんじゃ・・・」

少しずつ、血の気が引いていく彼の顔に、少女は今までに無い愛しさを覚えた。

「愛してるよ、ダァリン。ダァリンも私のこと愛してるでしょ?」

何度でも聞く。同じことを、言葉を変えて何度でも。

「愛してるよ。当たりま・・・」

「じゃああの人は誰?」

彼の言葉をさえぎって、少女は最大の疑問を問う。

「アレは・・・」

少しためらってから、答えた。

「恋人」

恨みも嫉妬も関係なくなった。

途端に、彼を自分だけのものにしなければ。という使命感に似たものがあふれ出してきた。

そうだ。あのことを・・・

「私ね。赤ちゃんが出来たんだよ。ダァリンの赤ちゃんだよ」

優しい笑顔でお腹を撫でながら言う。

「ね?この子のためにも、あの頃みたいに戻りましょう?」

「お互いを愛し合っていたあの頃に」

彼は黙って聞いていた。

「・・・はは」

薄く開いた口から、ほろりと笑い声がこぼれる。

「何言ってんのおまえ?バカかよ」

「え?」

困惑する少女。彼の言葉が理解できなかった。

必ず、彼は私のところに戻ってくると思っていた。

「子供?都合がいいな。コレで終わりにしよう」

まったく理解できない。ダァリンは何を言っているんだろう。

「何を言って・・・」

「戻れるわけ無いだろ。あの頃になんて」

今度は逆に、少女の血の気が引いた。

「子供が出来たなんて。お前はもう大人になったんだな」

「まだまだ、子供の俺とは違って」

何だろう、この感情は。

「もう終わりなん・・・がっ」

無意識にダァリンの首を絞めていた。

「愛してるよ、ダァリン。ダァリン、愛してる。大好きなの。ダァリンも愛してるでしょ?」

憎悪、嫉妬、愛。

憎い、無償に腹が立つ、大好きなダァリン。

「が・・・うっ・・・」

首に少女の全体重がのしかかる。

数分が数時間に感じる。

ダァリンが涙を流している。

もう、息はしていなかった。

「愛してる、ダァリン」

しかし、そんなことは少女には関係なかった。

大好きなダァリンと一緒に居られればそれで良かった。

「ずっと一緒だよ」

少女はもう一度満面の笑みで言うと、ダァリンにキスをする。

そしてもう立ち上がらないダァリンを背負い、線路沿いの道へ向かった。