ジャイの手に渡ってしまったカセットテープ。


経緯を推測すると、

検討材料にするということでキャプテンからカセットテープを預かった校長は、

恐らくそれを他の先生方に聞かせて意見を求める事もなく、

ストレートにジャイを呼び出し問い詰めたのでございましょう。


ジャイにとっては青天の霹靂であり、多少の動揺はあったかもしれませんが、

そこは外面のよいジャイのことですので、その場は適当にやり過ごし、

何かしら理由をつけてカセットテープを自分の手元にと考えるのは当然のこと。


そして何かと多忙な校長は、

弱小野球部の揉め事になどかまっている暇もないということなのか、

野球部内の問題は野球部内で解決するようにということなのか、

真意は分かりませんが、

とにかく私たちの切り札であるカセットテープを

こともあろうかジャイに渡してしまったのでございます。






「コソコソと汚い真似しよって、お前らは何をやりたいんじゃぁ!」


沼田さんの横っ面を豪快に張っても、怒りがおさまらない様子のジャイ。


「何度も言うとるがなぁ、文句あるなら直接言うてこいっ!」


確かに何度もそうおっしゃっていますが、私たちの意見など聞く気ないくせに・・・。


「こんな盗聴みたいな真似しよって、これはキャプテンのお前の指示かっ!」


ジャイは沼田さんに詰め寄ります。


ここは、いくらキャプテンとはいえ沼田さんだけに責任を負わせるわけにはいきません。


「それは、僕の独断です。」


私はジャイに殴られるのを覚悟で名乗り出ました。

すると、ジャイは私を睨みつけたものの殴ることはなく

両手でカセットテープを真っ二つに粉砕したのでございます。


そして私に向かって、


「こんなことやられたら、信頼関係いうのんは完全になくなると思わんかお前は。」


信頼関係?


あなたと私たちの間に、そんなものがあったとは認識しておりませんが・・・。



それにしても、目の前で粉砕されてしまった頼みの綱であり切り札であるはずのカセットテープ。


私たち野球部の行方を左右する大事なものを、何故ダビングしていなかったのか・・・。

まさに、“後悔先に立たず”でございました。



                                                 (つづく)


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単身乗り込んだ校長室での様子を部員たちに話して聞かせるキャプテン沼田さん。

しかし、その手には我々野球部の切り札であるカセットテープがありません。


私は沼田さんに確認をいたしました。



「沼田さん、カセットテープはどうしたんですか?」


「ああ、校長が検討材料にするって言うから、とりあえず預けてきた。」




・・・。


この言葉を聞いた私は、カセットテープをダビングしていなかった事もあり若干の不安が・・・。



しかし、



「検討材料っていうことは、ジャイを諦めさせることも考えるってことなのかな。」



「職員会議とかで、あのテープを他の先生たちに聞かせたりとか。」



「あれ聞いたら、他の先生たちもジャイの本性分かるよな。」



などと、他の部員たちは今後の展開を前向きに予想しながら盛り上がっております。


その時、ジャイがグランドへ現れたのでございます。


不穏な動きを悟られまいと、いっせいに練習の準備に取り掛かる私たち部員一同。


ですが・・・



「沼田、ちょっと来い。」



ジャイは、いつも通りの低くこもった声で沼田さんを呼び寄せました。


そして、沼田さんがジャイの元へ駆け寄り帽子をとった瞬間のことでございました。



バシッ!!!



ジャイは表情ひとつ変えずに、沼田さんの横っ面にいつもにも増して豪快な張り手をお見舞い。


部員一同その場に立ち尽します。



「お前は、どこまでワシを馬鹿にするつもりじゃぁ。」



そう言って、いきなり殴られ呆気にとられている沼田さんに凄みをきかせるジャイ。

そしてホットパンツのポケットから何やら取り出します。


それは、私たちの切り札であるはずのカセットテープでございました。




・・・ああ、やっぱり・・・。



                                                   (つづく)



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ジャイの横暴振りを収めたカセットテープ。

今後の野球部の行方を握っている切り札でございます。

これを校長に聞かせた上で、私たちがジャイから受けている仕打ちをありのまま話せば、

学校としても何かしらの動きを見せてくれるはず。

私たちはそう踏んだ上で、カセットテープをキャプテンの沼田さんに託しました。




そして翌日の昼休み、沼田さんはカセットテープを手に校長室へ。



放課後、練習前にグランドの隅に集まった私たちは、

沼田さんから校長室での様子を聞いておりました。

部員たちも皆気になるとあって、沼田さんに対して次々と質問攻め。

さながら共同記者会見のようでございます。


「とりあえず話は聞いてもらえたよ。」


「カセットテープは聞いてもらったんですか?」


「うん、校長は忙しくて時間が無いって言うから全部は聞いてもらえなかったけど、

 なんとなく雰囲気は分かってもらえたと思う。」


「で、校長は何て言ったんです?」


「うん、すぐにどうこうっていう事は言えないって。」


「ということは、今後は何か動いてくれるという事ですかね。」


「うん、俺はそう思うけど。」


矢継ぎ早に沼田さんに質問を浴びせた部員たちは

かすかな希望の光を見出し、何となく安堵の表情を浮べておりました。


しかし、私には気になる事がひとつあったのでございます・・・。



                                            (つづく)


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キャプテン・沼田さんの申し入れもジャイにあえなく却下され、練習開始。


「今日からは、本格的に大会に向けての練習じゃぁ。」


というジャイの号令の元始まったこの日の練習では、

私たち2年生は、これまでにも増して完全に蚊帳の外状態。

大会に出場する可能性が全くない補欠ということで、

バッティング練習の際も、ノックの際も、ひたすら声だしと球拾いのみ。

修学旅行には行かないという“やる気”を見せることによって、

ジャイは自分たちを大会のメンバーに入れなおすかもしれないという

かすかな期待を抱いていた谷口たちも、

やけくそ気味に声をあげながら、後輩の打った球を拾い集めていたのでございます。



そして、練習終了後。

ジャイが立ち去った後のグランドで、沼田さんは私たち全部員を集合させました。

その上で、


「皆、スマン。結局ジャイには何も聞き入れられなかった、

 これは、キャプテンの俺の力不足だ。」


私たち2年生部員に向かって、深々と頭を下げる沼田さん。

キャプテンにそんな事をされて戸惑う私たち。

その中で口を開いたのは古木。


「沼田さんのせいなんかじゃないじゃないですか。

 はなから、ジャイは2年生をメンバーに入れる気なんて無かったんだし、

 谷口たちも、これで分かっただろう?」


・・・、


・・・、


・・・、


「・・・俺、もう野球部辞めるわ・・・。」


うつむいたまま谷口がつぶやいた言葉に、皆驚きの表情でございます。

そして、柿里も続きます。


「・・・俺も、こんな状態で続けるのは無理かも・・・。」


ふたりの突然の退部宣言に、皆言葉を失います。


谷口と柿里が何処まで本気なのかは分かりませんでしたが、

私は、改めて部員の中でジャイに対する不信感が大きくなったこのタイミングが

とりあえず“切り札”の使い時かなと判断したのでございます。


私は、いったん更衣室へ入り

例のカセットテープが入ったウォークマンを持ってグランドに戻りました。


いったい何をする気だと、不思議そうな他の部員たちを前に、


「ちょっとこれ聞いて欲しいんだけど。」


そう言って、私はウォークマンの再生ボタンを押しました。


部員たちは、ウォークマンから流れる私とジャイの会話にじっと聞き入ります。


あらためて聞いても、ジャイの横暴振りをうまく引き出した見事な作品でございました。



そして、すべてを聞き終えた後しばらく黙り込む部員たち。

沼田さんが私に聞きました。


「こんなもん俺たちに聞かせてどうする気だ?」


「いや、これって使えるとい思いません?」


「使えるって何に?」


「これを利用すれば、谷口も柿里も辞めなくて済むと思うんですけど。」


「・・・、どうするって言うんだよ。」


「このテープを使って、ジャイの方を辞めさせるんです。」


「どうやって?」


「・・・手っ取り早く行くなら、校長にこれを聞かせて

 顧問としては不適任という事で辞めさせてくれるように頼む・・・。」


・・・、


・・・、


・・・、


とりあえず、反撃開始でございます。



                                               (つづく)

 


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夏の甲子園大会の地区予選メンバーが発表された翌日のことでございます。

練習開始前、部員たちが集まったグランドにジャイが現れると、

皆の視線を受けながら、キャプテンの沼田さんがジャイのもとへ駆け寄っていきました。

当然、目的は大会メンバーについての話し合いでございます。


「監督、ちょっとお話があるんですけど。」


「・・・何じゃ?」


大体の察しはついている様子のジャイは、グランドの隅に置いてある指定席のパイプ椅子に腰掛けました。

その前に、帽子をとって直立の沼田さん。


「大会のメンバーについてご相談があるのですが。」


「相談? 何をじゃ。」


「監督は2年生を修学旅行に行かせるために大会のメンバーから外したということですが、

 2年生の部員たちは皆、修学旅行には行かないと言っています。

 ですので、もう一度大会のメンバーを考え直してもらえないでしょうか。」


あからさまなに面倒くさそうな様子で沼田さんの話を聞いていたジャイは

沼田さんをひとにらみして言いました。


「決定したもんを何で考え直さないかんのじゃぁ。

 それに、2年生かて気が変わって修学旅行に行きとうなったときに

 大会のメンバーに入っとったら、気ぃ使って言いにくいじゃろうがぁ。

 それを考えたら、メンバーには入れとかん方が2年生のためにもええじゃないか。」


・・・だから、この状況で“やっぱり修学旅行に行かせていただきます!”なんて

誰も言うわけないでしょうが!


もちろん沼田さんも、そうですかと引き下がるわけにはいきません。


「しかし、本人たちは行かないと言っていますし、

 2年生がこれだけメンバーから外れるというのは不自然だと思うのですが。」


「何が不自然なんじゃ?」


「監督が、無理やりにでも2年生をメンバーから外したがっているように見えるんですけど。」


お、今日のキャプテンは中々踏み込んでいきますなぁ・・・。


「じゃから、2年生をメンバーに入れんのは修学旅行に行かせるためじゃ言うとうじゃろうが。」


「だから、2年生は皆修学旅行には行かないって言ってるじゃないですか。」


こうなると中々話が前に進みません。


「何じゃ、お前はワシが決めたメンバーが不満や言うのか?」


「不満というか、僕もメンバーから外された2年生たちも納得がいかないんです。」


ジャイは沼田さんにしばらくにらみをきかせた後、ヌッと立ち上がると・・・


バシッ!!


・・・結局そうなりますか。


「メンバーを決めるのはワシじゃ。

 お前らが納得するもせんも関係ないわ、黙って言うことを聞いとればええんじゃ。


う~ん・・・、

実績のある何処ぞの名将の台詞ならば聞こえも変わるのかもしれませんが、

私たちには、勘違い男が無茶苦茶言ってるとしか思えませんでした。


「お前ら、何をモタモタしとるんじゃ。はよ練習を始めんかぁ。」


遠巻きに様子を見ていた私たちはジャイに言われて、

重々しい空気の中で練習の準備を始めたのでございます。



                                                  (つづく)


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