JELLY FISHのブログ
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ワールドエンドスクール


今夜世界が終わることになったから
僕らは二人
いつの日か以来の制服に袖を通して
茜射す古い校舎に忍び込んだ


玄関に近い方から順番に
全ての教室を回って
黒板に大きく自習と書いていき
一番奥の教室の
黒板の隅の日直の欄には
二人の名前を相合い傘で書く
そうして急に始まった授業の題目は
愛について
君が言うにはテストに出るらしいけど
笑い合って短いキスを何度も交わしながら
今のが愛これも愛と
勝手に決めているうちに
全部わかったような気になれるから
赤点の心配はいらないと思った


長い廊下を手を繋いで
行く宛もなく歩いていく
今見ている景色も
響き渡る足音も
これが最後になる
不意に立ち止まった君は
あのねと意味有り気に呟いて
僕からゆっくり離した手を
二三歩先で後ろに組み
スカートをふわりと翻させて叫んだ
ずっと君のことが好きでした
沈む夕日の光を浴びて
赤く染まったその顔は
最後にしては
綺麗すぎて
僕は思わず
悪戯っぽく笑って走り去った君を
すぐに追いかけるのを忘れてしまっていた


君を追いかけて
夜になりきれない赤紫の中を走り
行き着いた場所は
校舎の外れで
姿は見えなかったけど
荒い呼吸を繰り返す音が
僕を撫でるように聞こえていた
僕は音楽室で
古いギターを見つけ
チューニングも何もせずに
錆びた弦を引っ掻き
最後の歌を歌う
途中で切れた弦が
指を刺して
僕の声を霞めさせる
隣の美術室から
これしか見つからなかったと言って
大きな画板とキャンバスを持って来た君は
埃を払ってそれを抱えると
机の上に座ってクロッキーをし始めた
諦めたギターを置いて立ち上がり
ピアノの鍵盤を好き放題叩いていたら
顔を動かさないでと君に言われ
僕は目線を上げたまま
手探りで音を奏でる
どうしても出ない音の部分に
キャンバスの擦れる音が入る
教室を満たす淡い闇が
僕らの覚束ない演奏に染み込んでいく
君の絵の中の僕は
泣いているみたいだった

喉が渇いたと言う君の手を引いて
理科室へ向かい
棚に入っていた適当なビーカーを取り出して
蛇口から水を汲む
僕も一緒になって
丸底フラスコで水道水を飲みながら
薬品の匂いに酔っていく感覚を楽しむ
さっきの授業の実習だと言って
愛についての実験を始めようとする君の輪郭は
闇の中でも白く浮き出ていて
学ランの襟を掴まれるままに塞がれた唇や
悲鳴のような音を立ててガラスたちをよそに
僕はその消えてしまいそうな体を抱き上げ
理科室を飛び出て廊下を走った


誰もいないのは
決してこの学校だけでなく
危なげな僕の足音も
嬉しそうにはしゃぐ君の声も
延々と静寂の中を漂い続け
このまま世界の果てにまで届くような気がした
保健室の扉を開け
君を抱えたまま
小さなベッドへ飛び込む
白くて冷たいシーツが
僕らの全てを洗っていく
きっとここは
世界でいちばん清らかな場所で
僕らは残された最後の幸福を貪りながら
穢れることもなく
交わっていく

チャイムが鳴り響く
産声のようにけたたましい音で
世界の終わりが
告げられる
僕らはまだ
愛についての
実験を繰り返している