引き続き『新版断腸亭日乗第六巻』を読んでいる。ようやく317ページに漕ぎ着けた。例によってルビなし漢字の読み方や意味を調べながら読み進める。
荷風はこの日記中のところどころに、世相批判や自虐めいた感想や周囲の気に入らない人物への悪口などを書いており、この部分だけを抜き書きしても楽しめる。
317には、こんなことが書いてある。「帰途省線電車の中にて突然歌風先生にてはなきやと問ふ乗客あり。余は人違いなりと答え次の停車場に来るを待ち別の車に乗りぬ。うッかり散歩もできぬ世とはなれり」
電車やバスの車中で有名人と乗り合わせたとき、気軽に声を掛ける人がいるようだが、昭和24年にもそんな人がいたようだ。
私も、過去に高橋恵子、泉麻人、田中小実昌、坪内祐三と接近遭遇したことがあるが、声はかけなかった。かけたところで色紙もサイン帳もないし、いつも見てます、頑張ってくださいくらいしか言うこともないし、言ったところでそれがどうしたということである。有名人といえども、プライベートの時に、声をかけられては迷惑であろうし、この時の荷風も、鬱陶しくかつ迷惑に感じて、乗っていた電車を降りてしまったようだ。
荷風の風体は特徴的なので間違えようもなく、荷風が「人違いですよ」と答えたのにはちょっと無理があるが、突然声をかけられてギョッとする荷風を想像すると、ちょっと笑える。