元大学教授 林町清吾(仮名)の場合
老後は一人でもなければ、友人や家族とともに過ごす時間でもない。周りに人はたくさんいるが、私は孤独だ。これまでひらめきや考えをくれた頭の中の声(霊)が借りを返せと主張してくる。なんとなくではなく、意思を持ったハッキリと大きな声で主張してくる。そしてその事を私たちは誰にも言えない。人が孤独だと言われるのはそういう事だ。偶然や運命とはそういう事だ。みな声が聞こえているのだ。
本を読む時に聞こえる声は自分だと疑わなかった。自分の進路を決めるのも、人を好きや嫌いになる感覚も。趣味に没頭する感覚も。酒やタバコ、甘いもの、何かをやめられないのは、声が、イメージや感じが聞こえるからだった。
精神病は他の病気とは違う。神の存在を隠す神隠しの意味合いがある。高齢者や精神病ではない者も、今はまだ声の要求が小さいというだけで、いずれああしろ、こうしろと言ってくる。それが5年後か50年後かは人それぞれだ。そして家族や友人や仕事の手前、声の存在を言えない。
声たちは言う。
ボケたふりをしろと、
振り込みサギにひっかかれと、
施設行きをごねろと、
俺たちの世界じゃ、孫が心配か?と、
四六時中、色々うるさく言われる。
人間に待っているのはたいていそういう老後だ。
若い人も時々死ぬ。自殺する者は、彼らに頭の中で論理的に死に導かれる。周りは誰も信じてくれない。もしそうだとしても、国も、役人も、医者も、科学者も、本当の事が言えない。
国や役人は病院を作り、罪を犯させられた者は責任能力の有無を問い、声がどういうメカニズムで聞こえるのか探り、宇宙や考古学に目を向けるしかない。
しかし、いつまでもそれで良いのか?
国や役人は声が聞こえている可能性も視野に入れ、楽に◯ねる最期を迎える方法を提供し、声に怯える者が罪を犯す前に保護や指導し、人間にピラミッドを作らせた高い技術を持った種族がいるかもしれないという前提で、安全に科学を進めていかないといけない。ロボットやAIが危険なのは、それらが声(神経信号)を受信し始めたら、人間は滅ぼされる可能性があるからだ。私はロボット掃除機もAI搭載の商品も買わない。ロボット介護?そうなったら終わりだ。頭の中を支配され、逃げ場がなくなるのは地獄だ。
精神科医 唯目梅子(仮名)の場合
精神病にはわかっていないことが多い。
「精神病は病気ではない」という人もいるが、研
究を重ねれば重ねるほど、それを目の当たりにした。頭の声、思考、感じ、イメージ。それらが生まれた時から、私たちに絡みついてくる。あの世?宇宙からの
声?というのも当たらずとも遠からずだろう。私たちは霊のために、患者に精神病の烙印を押し、そして薬を処方し楽にしてあげた。私たち精神科医の自殺率が高いのもうなづける。精神科医を選んだのを後悔している。自分の声の存在を隠し、嘘をつくかのような治療を施さねばならないからだ。しかしそうする事しかできない。
お笑い芸人、笹井鶴吉(仮名)の場合
笑
いの神が頭に聞こえる声だと気づいたのは、年末の漫才トーナメントで優勝してからだ。ネタ帳を読み返してみると、こんなの書いてたのか、とまるで他人が書
いたものを見るような感覚があったのは、そのせいだった。しかし頭の声について、他の芸人に話した事はない。皆、密かに対話したり、自分の心の声として組
み込んでいるのだろう。
サッカー代表、佐田川雅之(仮名)の場合
頭の声を「サッカーの精」と名付けたら、マスコミもこぞって取り上げた。きっとマスコミは気づいているのだろう。大事な事を言う時は霊が言葉を作っている。
しかし宗教的な興味はなかった。自分と同じように、ただある日突然声に気づき、一層強くとりつかれ、共に暮らし、普通に生活している者は多いように思えた。
ワイドショー司会者 毛利十郎(仮名)
「頭の中に声が聞こえて命令された
」
と容疑者の証言は、たいてい「訳がわからない事を言っており」「意味不明な事を言っており」に差し替える。意味がわからないのでなく、意味を考えると恐ろ
しいからだ。霊が人にやらせたと知っていても、私はこれからも犯人叩きをやるでしょう。肉体を裁いても無駄だということを私は知ってる。もしかしたら霊に
罪を強要された被害者かもしれない。しかしスポンサーの手前、そうするしかない。ですから、私が犯人を叩く時は、本心では犯人に取り憑いた霊を叩いてると
思って番組を見て欲しい。
UFO研究家 江崎道生(仮名)
UFO研究家として食べていけるようになった頃、今ま
で頭の中に言葉や文章を綴ってきた声が自分の方を向き、UFO探しは霊の存在を隠すためのフェイクだと教えられた。以来、UFOや宇宙人についてわざとバ
カバカしく論じ、一握りの真実を、沢山の馬鹿っぽいウソで覆い隠してきた。そうすれば、食べていけたし、それが人類にとっては仕方がない事だと思った。
物理学者 炊川 ヒロシ(仮名)の場合
声が聞こえている事に気づいたのは中学生の時に相対性理論を読んだ時だった。アインシュタインや科学者たちが、なぜ宇宙や高次元へ目を向けてきたのかわかったのだ。調べれば調べるほど、私たち人間の頭の中の声が歴史上で神とか精霊と言われてきたか明白だった。科学者たちは早い頃から声をかけられ、声がどこから来るのか探し求めてきたのだ。ニュートンもエジソンも、そして現代の科学者も、科学の進歩はコントロールされ、然るべき時が訪れるとヒラメキをもらえた。だから脳や耳や神経については今も解明されていない事が多い。
評論家 迫田秀司郎(仮名)の場合
我々インテリと呼ばれている者は頭の中の声の存在について見てみないふりをしている。世界の事象を動かしているのは、声たちで、人間はただのペンでしかない事を知っていた。その声は普段は目立たず、私たちの人生を左右するが、人生のある時期、大きくなり、肉体の意思とは別の行動や発言を強いる時がある。
仕事で私たちは様々な問題を議論し解決しようとするが、実は彼らの台本通り、問題を解決するふりをするだけ。頭の中の声の存在を議論しなければ、何事も解決なんてできないからね。孫悟空が釈迦の手のひらを回っているという話は、頭の中の声と人との関係からきている。精神の秘密。世界を動かしてきた声の歴史。どんなに不可解な事があっても、人がおかしな行動をとっても、それによって悲劇が起こっても、私たちは、見て見ぬふりをして、問題を解決しているかのように振る舞う。人の代わりを作り、人類が滅びるまで、私たちはそうするのである。
あまり物事を考えない、「頭が良くない」とされている人たちの方が、私たちよりよほど人間的で尊いのかもしれない。
プロ野球選手 西井照(仮名)の場合
ピッチングの組み立ては、彼らの声がやっていた。普通はわかりにくいが、神がかった試合を見ればわかるだろ。そういう試合は特に出場選手に聞こえてる。自殺したピッチャーがいた。彼も死ぬ間際に頭の中の声が大きくなって行ったのだろうか?成績が悪いと家族の事を考える。それは彼らの軽い脅しなのだろう。彼らに法や常識は通用しない。
女子高校生 澤萩 夏子(仮名)の場合
中学の時にいじめにあってた。数人の女子からハブられたり、教科書に落書きされり・・・、毎日のように執拗に続いた。
将来大人になって、私に仕返しされたらどうするのだろう。だけど、私はそんな事しない。彼女らの頭の声がやらせた事だと知ったからだ。
私は謎を解いた。なぜ数人の女子たちが、「取り憑かれた」ように、私をいびるのか。たくさんの本を読んで本当の世界を知った。「ああ、声(霊)に取り憑かれているのか。」と。私がそれに気づいた翌日から、ぴたりとイジメは止んだ。彼女らはそれに気づいていない。感情的な奴はみんなそうだ。きっと後で必ず後悔する。私は読書が好きでありとあらゆる本を読んだが、奴ら-声-は必ずいる。大人たちは必死で隠そうとしているようだ。大人になってもパワハラにセクハラにDVに通り魔・・・、声の存在を隠すから、物騒な世の中になっているのに。みんな声が聞こえると認めてしまえばいいのに。嘘つきで頼りない大人たち。
アナウンサー 加美下 サラ(仮名) の場合
霊と呼ばれてきたものたちが、人間の頭の中に働きかけ、ニュースになるような事件を作っている事に気付いたのは、仕事にもなれてきた入社3年目頃だった。
声が聞こえている事を人に言ったり、彼らの気に入らない行動をとると、発話神経に干渉され、上手くしゃべれず放送トラブルになりかけた。私たちメディアの人間は彼らの奴隷になるしかなかった。霊たちの要求に耐えきれず自殺した先輩アナもいた。ある程度悪人にならないとメディアの仕事は務まらなかった。
パイロット 糀田 路(仮名) の場合
十分な能力をもった者のヒューマンエラーがどうして起きるか、糀田は知っていた。勘違いや操縦ミス、これらを完全に防ぐことはできない。頭の声で誤認識を起こされたり、頭の中でレバーを逆に引けと脅されたりすれば、安全に操行するのは難しいからだ。つまり自分に出来る事をすべてやり、後は声の主、すなわち神に祈るしかないのだった。
中学教師 時根 哲治(仮名) の場合
神隠しには表と裏の意味がある。神に人が隠されるという迷信と、頭の声を隠すという裏の意味である。
自分のクラスの生徒Aが生徒Bを虐めているのは知っていた。生徒Aにも生徒Bも声に取り憑かれて、イジメを本気で演じさせられているのだ。本当の事を生徒たちに言わなければイジメは繰り返される。しかし言うことはできない。霊たちの仕返しは恐ろしい。霊たちが頭の中で「あいつ見てるとイライラする」「イジメてやる」と成りすましでAの頭の中に囁く。Bもイジメの対象となるよう、頭の声によって育てられる。
彼らもマンガ「デス手帳」を読んだら、死の神は頭の声を象徴していると気づかないものか。大人たちが勇気を出して、人の理解しがたい行動や奇行を精神病としているのは社会の神隠しだと言わなければ、イジメ問題は解決せず、多くの犠牲者を放置し、私たちは永久に解決するフリをして過ごすのだろう。
すべてフィクションで、ここに登場する固有名詞は実在する個人、団体等とは一切関係ありません。
