谷川岳ロープウェイを降りると、その先にリフトが有ります。

大抵の人はこのリフトで上に行きます。

 

 

リフトを降りると、そこは天神平。

 

 

よく晴れているので、山々がすべて見渡せます。


 

素晴らしい景色を眺めながら、あずまやで朝食。

コンビニで買ってきたサンドイッチと、家から持ってきた温かいお茶が、なからおいしく感じられます(笑)

 

 

谷川岳というとここまでで満足して帰る人が多いのですが(実は私もそれでした)、本当に楽しめるのは、ロープウェイの始発駅の裏から、一の倉沢にいく道があるのです。

以前は車で行けたそうですが、今は自然保護のため、2キロほどの山道を歩くか、1時間に1本の定員8人の電気自動車でいくしか有りません。

天神平は紅葉は終わっていましたが、この辺りは標高が低いので、まっ盛りです(11月4日現在)。

 

 

ここがバスの終点ですが、橋を渡って未舗装の道を登って行くと、もっと素敵なところがあると言われ.....

 

すごい紅葉に感嘆しながら、ゆっくりゆっくり登ってみました。

 

この湧き水のあたりの岩肌に、遭難死した人たちのたくさんのプレートが有ります。

立ち止まって読むのも憚られ、まして写真なんか撮れないぞわっとくる雰囲気です。

 

そして突然現れるこの圧倒的な風景!

すごい!としか言いようがありません。

峨々たる岩肌は余りにも美しく、鬼気迫る何ものかがあります。

魔の山、とでもいいましょうか。

多くの若者を引き寄せ、命を吸い取ってしまう、この世のものではないような魅力です。

 

写真では伝わらないので、ぜひ一度行ってみて下さい。

ここは幽ノ沢というところですが、この先に行くともっともっと素晴らしい深山幽谷の趣きがあるところに行けると言うのですが....時間がないので今回はここまでにしました。

次回は天神平などに寄り道せず、スニーカーじゃなく山の靴を履いて、ストック2本持っていこうと思います。

 

谷川岳は世界有数と言われるほど、遭難死の多い山です。

ふもとの土合駅の前にも、供養の碑が沢山あります。

普通の観光地とちがって、心に深く刺さるような、厳かな気持ちになりました。

 

 

 

           <紙ヒコーキのなやみ>  安部麗子

村の子供たちは、毎日のようにトンビ岩で遊びます。

竹やぶと雑木林の間のケモノ道を通りすぎると、髪の毛のようにもつれ合った灌木の茂みです。

その茂みにうがたれた、人一人やっと通れるようなトンネルを、這うようによじ上ってゆくと、いきなり眺めの良いトンビ岩に出ます。

 

ここから眺める村は、別の世界としか思えません。

 

いつも見ている大きな千間山は、お椀を伏せたような形です。

 

子供たちの一番お気に入りの川だって、細い細い縄にしか見えません。

 

その川に注ぐのは、みんなの大好きな沢ガニのとれる水路ですが、こんもりした茂みにかくれて、全く見えません。

 

ここにいると、鳥の気持ちが解ります。

巨人の気持ちも解ります。

空の雲をつかんで、アングと口に入れる事だって出来そうです。

 

すぐ下に、松の木がクネクネと逞しい枝を広げています。

 

その枝の間に、小さな白い紙ヒコーキがひっかかっています。

だいぶ前に子供が飛ばしたものですが、松の葉の間にしっかりと入り込んでいるので、雨からも風からも守られているのです。

 

紙ヒコーキは、仲間といっせいに空に舞い上がった日の事を、今でもハッキリ覚えています。

 

仲間たちが、ゆっくり旋回しながら思い思いの方角に消えてゆくのを、ひとり墜落しながら見ていたのです。

自分を飛ばしてくれた男の子のがっかりした叫び声も、ちゃんと覚えています。

 

子供たちの誰も、飛びそこなった紙ヒコーキがすぐ下の松の木の中にあるなんて、知る由もありません。

 

子供たちは毎日のように遊びにきて、いろんな事を話していくので、小さな紙ヒコーキは、ちっとも退屈する事はありません。

それに、このすばらしい眺めときたら!

雨の日は雨なりに、風の日はかぜなりに、うれしい思いが心を膨らませてくれます。

 

最近、子供たちの話の中に、しきりに「カッパ池」という言葉が出てきます。

どうやら、遠足があるらしいのです。

そこへ行くためには、2時間もバスに乗り、さらに1時間も山登りをするといいます。

 

とてもいい所らしいのです。

黄色と紫のお花畑があり、一年中、そよ風に揺れているといいます。

池には空が映り、雲も山もあまりにハッキリ、クッキリ見えるので、水というより鏡のようだといいます。

可愛らしいイモリや、イワナも住んでいるそうです。

 

子供たちの話を聞いていると、ちょっと行ってみたくなります。

 

そう思って聞いているうちに、すごく行ってみたくなります。

 

とうとう明日が遠足という日になると、もう行ってみたくて行ってみたくて、たまらぬようになります。

けれども松の枝にしっかりはさまっている紙ヒコーキですから、どうする事も出来ません。

 

遠足の当日の事です。

ちっぽけな紙ヒコーキに、奇跡が起こります。

 

カラスの子供たちが追いかけっこをしながら飛んできて、いきなり松の枝の上でふざけ始めたのです。

そのとたん、紙ヒコーキは、自由に空を飛んでいるのでした。

 

紙ヒコーキは、子供たちの行列の方に向かって、ゆっくりと飛んでゆきます。

 

今までじっとしていた景色が、ユラリとかしぎます。

そして少しずつ少しずつ、今いたトンビ岩が遠ざかってゆきます。

 

その時、紙ヒコーキは突然気づいたのです。

この景色は、自分がいてもいなくても、ずっと同じ景色のままでいるのだ、と。

 

離れるのが、急につらくなります。

紙ヒコーキは、生まれて初めてやきもちをやいていたのです。

自分一人をのけ者にして、これからもずっと続いてゆく時間。

そして大好きなこの風景。

それらの愛しいものたちが自分の手を離れると思うだけで、つらくてたまらないのです。

 

急いでUターンします。

 

でも、カッパ池にも行きたいのです。

再びUターン。

 

一度に二つの場所にいられないということは、なんて不幸なことなんだろう。

そう思って、泣きそうになりながら、何度も何度もUターンを繰り返します。

 

そんなわけで、小さな紙ヒコーキは、今でもこの空のどこかを、グルグル回っているのです。 了