August 2008

金閣寺 (新潮文庫)/三島 由紀夫
¥580
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VillegeVanguardで三島由紀夫コーナーがあって立ち読みしておもしろかったのがきっかけ。あらすじはなんとなく知っていたけど、暗そうだなぁと思いながら読んだらやっぱり暗かった。。。
でもいろんな事件があって、かなりドラマチックだし、ラストは印象的。

主人公が幼いころの、「有為子」という人の記憶がストーリーの中でかなり重要みたいで、この人の表情の描写も何度も出てくるけど、ぴもー的にはうまく想像できない。ある決定的な瞬間があるんだけど、そのとき「有為子」っていう人がその時どういう表情をしていたんだろう。ずっと気になっている。

金閣寺の描写はさすがに美しい。中でも、鳳凰の描き方がおもしろいなぁと思った。鳳凰が固まっているのは、飛び方を忘れてしまったのではなく、ほかの鳥とは違って、空間を飛ぶのではなく、永遠に時間の中を飛んでいる、ということらしい。そんな風に考えたことないけど、うまいこと言うなー。

「人の苦悶や血を見ることは人間を謙虚に人の心を明るく和やかにする。一方で人が残虐になったり殺伐とした気持ちになるのはうららかな春の午後だったりする」という柏木の言葉。・・・それは一理あるかもしれない。前者については事実だと思う。その瞬間は暗澹たる気持ちになるかもしれないけど、後になれば逆に自分が生きていることに気がつくし、そういう場面への恐怖によって人生の明るい面に気持ちが向くような気がする。後者についても、木漏れ日のゆったりした時間の中で、平和ボケしてる雰囲気をぶち壊したいという気持ちがわいてくるときも一瞬ある。リアリティがなくなるというか。
なんでだろう。してみると、少年犯罪者たちの傾向としてよく指摘される、ホラーやサイコ映画をよく見ていた、というのとの関連はどうなるんだろ。まぁ彼らが見てたのは所詮映画であってリアリティがないからかな。
とにかく、のどかな日にはちょっとしたきっかけで誰でも残虐になることができると思う。というか、基本的に人間は残虐で、今の社会がそれを必死に押し隠そうとしているといったほうが正しい?

「生あるものはすべて金閣寺のような厳密な一回性を持っていない。殺人が対象の一回性を滅ぼすためならば、殺人とは永遠の誤算。」という言葉には目からウロコ?人間こそ、たった一つのかけがえのないもの、と言われているけど、それは人間から見た勝手な妄想かもしれない。人は繁殖し、少しずつ形を変えて伝播する。地球上で見れば、確かに金閣寺の方がよっぽど一回性を持っている。

世界を変えるのは行為ではなく認識。認識によって世界は永久に不変で、永久に変貌する。認識は生の耐え難さのための武器であり、それでいて耐え難さは少しも軽減されない」
なんとも重みのある柏木の言葉。
つまり、世界の中心は自分ってことだよね。世界は自分にとっての世界でしかない。
このセンテンスの部分だけで十分に、「金閣寺」は読んでよかったと思う。