November 2007

あなたはコンピュータを理解していますか? 10年後、20年後まで必ず役立つ根っこの部分がきっちりわかる! (サイエンス・アイ新書)/梅津 信幸
¥945
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本屋で見かけて衝動買いしてしまった。久しぶりに新書を買ったかも。コンピュータには日ごろからお世話になっているけど、実際のところ、どんな奴なのか全然知らない。なのに、たまにこっちの希望通りに動いてくれなかったりすると、「使えない奴め!」などと暴言を投げかけている。ここはひとつ、大きな心で相手のことをじっくり考えてみよう、ということで読んでみた。

たとえ話がたくさん出ていて、すごくわかりやすかった。コンピュータのブラックボックスがグレーボックスくらいには変化したし興味も膨らんだ。データと情報の話、エントロピーの話、データを送るパイプの話、メモリの話、いいコンピュータの話などなど。

すぐに何かの役に立つ情報ではないけど、20年後にも役に立つ情報を、というコンセプトで書いてくれている。(なんだか最近の大学教育関係者にも考えてもらいたいセリフだ。)。そっけないけどかわいい絵や図がすごくいい。タイトルだけ見るとよくある実用書みたいであんまりおもしろくなさそうなんだけど、後書きと絵を見て買うことを決めたぐらい。

言語を例に出してエントロピー(データ、情報)を説明している部分がある。英語の最大エントロピーは4.75ビットで日本語は13ビット。日本語の方が圧倒的に複雑。でも意味のある正しい文にしようとすれば、エントロピーはどんどん下がって、英語では1.33ビット、日本語では4.5ビットまで小さくなる。おもしろいことにどちらの言語も、実際に使うのは3割くらいの量になっていること。ほかの言語もそうなのかな。エントロピーの考え方を使うとこんなこともわかるんだなーと感心。コンピュータの本だけど、こんなことを例に出しているところがおもしろい。

それからエントロピーを輸送することの難しさもよくわかった。今ぴもーがブログを作って、最終的に読者の頭に内容が伝わるまでにはいろんなチャンネルを経由している。チャンネルが細くて、エントロピーが一度小さくなってしまったら二度と元には戻らない。エントロピーが減少の危機に最も直面するのは、実はぴもーの脳からキーボードを打つ手に伝わるところ。それと、画面の文字を見て誰かの脳へ伝わるところ。キーボードから文字、ネットワークを通ってまた画面に文字として映し出される。この間をコンピュータが行うんだけど、人の言語能力、表現能力に比べたら、コンピュータは実に性格にエントロピーを移動させているといえる。ほかにも、コンピュータのよくできていること、人間の能力と比べたら・・・なんてことがわかりやすく書いてあって、コンピュータに暴言を吐くなんてとんでもないことだというのがわかった。。。

それにコンピュータの本ではありながら、著者の哲学があちらこちらに出ていておもしろい。「何かを理解するということは、抽象化と具体化を行ったり来たりできること」、「コンピュータの世界も人間の世界も、未来は常に移り変わっている」、「普遍的原理として、バグがないことは証明できないけど、バグがない状態は実現可能。一歩一歩努力あるのみ」「プログラマたるもの、息絶えるときには『わがプログラムに一片のバグなし』と言ってみたいものだ」などと、ステキな言葉たちが結構出てきて、読み物としても◎。

後書きに、いい本の選び方についても言及してある。ほんとによく考えてこの本を書いたことが窺える。正直言って、コンピュータを専門とする人というのはあまりに現実的で、それほど理念や情熱などといったものは持っていないのではないかと考えていたけど、それは大きな間違いだった。この著者は人間としても尊敬できそうだ。大学の先生なので、一度講義でも聴いてみたいなー。