人を呪わば穴二つ
そんな話ただの教訓だと思ってた。
人を呪ったことなんていくらでもある。
みんなだって1度はあるはず。こんなの当り前。
人を呪って自分に返ってくるなら世の中みんな不幸になるんじゃない?
ただ・・・あたしの場合は特別かもね。
人を呪うだけでなく殺してしまったのだから。
それは小学校4年生の寒い冬の季節だった。
私は上にお姉さんやお兄さんがいる影響で家にはたくさんのゲーム機器が買い与えられていて
幼稚園のころから遊ぶと言えばいつもゲームだった。
小学校に上がっても女の子と遊ぶことはなく男の子たち数人と誰かの家に集まってはゲームをして遊んでいて、親には「もう少し女の子らしい遊びをしてもらいたいものだわ・・・」とよく言われていた。
小学校4年生になってからこの熱はさらに増して家に引きこもって夜中までDSばかりしているとさすがに親も「いい加減にしろ!」と怒鳴り込んで没収する。
あの時は頭が少し麻痺していたのかもしれない。
ゲームを没収した父親と母親に異常な憎悪があふれ、とにかく死ね、死ねと心の中で繰り返していた。
机の引き出しからメモ帳とペンを取り出して死ねという文字を隅から隅までうめていく。
メモ帳を人の形に切ってペンで何度もぶっ刺す。
そんなことをしても何の解決にも至らないしゲームを返してもらえるわけでもないとわかっていても、それだけで心はいくらかマシになった。
だいぶスッキリしてその日は布団に入った。
次の日の早朝。口をきいてもいない母親にたたき起こされた。
朝は本当に弱い、弱い。
憎しみの目で母親を見ると母親の頬に涙の跡がうっすらとあるのに気付いた。
・・・?
「美穂・・・じいじい・・・・・・・死んじゃったよ・・・・。4時ぐらいにバアバから・・・連絡あってね・・・。今日広島行きの飛行機なんとかとれたから、給食が終わったら途中で帰ってお母さんと先に向こう向かっていよう。お父さんとお兄ちゃんお姉ちゃんはあとから行くから・・・。」
私は布団に入ったまましばらく動けなかった。
ジイジイ・・・
死ぬような感じ全然しない人なのに。
去年の夏あんなに元気だったのに。
広島でいっぱいお菓子やジュースを買って毎年私たち孫が遊びに行くのを待っているような人だった。
なんで・・・・・・・
その時同時に昨夜の「死ね、死ね、死ね」という自分の声が心の中に響いた。
ペンでメモ用紙にぶっ刺している自分の姿が頭に浮かんだ。
ちがう。
あれは違う。
あれはお父さんとお母さんだ。
あれはジイジイじゃない。
母親が言った。
「ジイジイが倒れたのは昨日の夕方4時ごろだったみたい。その時にはもう意識がなかったかも。発見が遅れたから確かなことは言えないし死因もわからない。1人暮らしはこれだから怖いわ・・・」
・・・・・ちがう。
自分で自分に言い聞かせた。
ちょうど死ね、死ねとあの恐ろしい自分に豹変したのは昨日の夕方4時だった。
・・・・・・・・ちがう・・・・・・・・・・・・おねがい・・・・・・・・・・ちがう。
通夜は身内だけでひっそりと行われた。
葬式も何事もなく終わった。
それはそれで終わった。
あれから14年後。
24歳。
美穂はあることに気づいていた。
他の友達はみんな持っているのに私だけが持っていないもの。
彼氏。
私は今まで彼氏なんて出来たことない。
恋愛なんてしたことない。
周りは幸せそうにカップルが手をつないでいる。
それを見るとまた美穂は心の中で「死ね、死ね」を繰り返す。
仲の良かった亜紀が彼氏とのやり取りのLINEの文面を見せてきた。
裏切られた気持ちになった。
なんであたしだけ。
どうしてあたしのことを好きになってくれる人はいないの?
顔もブスじゃないしコミュニケーション能力だってある、普通のOLと変わらない。
どうして誰もあたしを見てくれないの?
みんな死ね・・・死ね・・・。
また美穂は気づいた。
ああ・・・これも人を呪い殺した神様のバチかもしれない・・・・・・
24歳になるまで美穂はずっと小学校4年生の時の出来事を心のどこかにずっと隠し持っていた。
責任を感じていた。
人を1人殺してしまった代償に自分は一生このまま恋ができないのだと自覚しつつあった。
仕方がないことなのかもね。
独身も悪くない。自由に金は使えるし自分だけの時間がたくさんある。
そう思うことにした。
いつも通り朝6時半に起きて7時に家を出る。
満員電車に押されながら会社へと向かう。
「おはようございます」とみんなに声をかける。
仕事も順調に進み、やっと昼の休憩の時間に入る。
「杉田さん、今夜あいてます?」
そう声をかけたのは同期の海津くんだった。
正直面倒くさい。だが、口は勝手に「はい」と言っていた。
そこからはベタなドラマと一緒。
食事を何度か重ねていくうちに私は海津くんのことが気になっていた。
でも・・・恋愛できない呪いにかかってるからどうせこの恋も終わるはず。
せめて処女だけでも奪っていってもらいたいけどね。
まさか30にもなって処女は恥ずかしいわ。
そう思いながら1人でクスッと笑った。
海津翔太は正直この杉田美穂に惚れていた。
自分と同期のこの彼女、一見クールだが仕事は本当にできる。
頭もよさそうだし顔もまあまあ可愛い。
ただ、告白をするチャンスだけがなかった。
いつも真剣に彼女を見ようとすると顔をそむける。
早くその唇を奪いたくてしょうがないのに彼女にはその気がない様子だ。
きっとモテるんだろう。
こんな俺なんて眼中にないのかもしれない・・・
海津はそう思っていた。
2人はひそかに相手を本気で好きになっていった。
今でも覚えている。
10月23日。
その日は朝から雨がずっと降っていて夜にはひどくなっていた。
寒くて寒くて仕方のない日だった。
美穂は翔太の家の前で車を止めて助手席のドアを開けてやった。
翔太が出ようとしたその時だ
後ろから来たバイクが車のドアにぶつかり転倒。
ドアは思い切り跳ね飛ばされ、翔太も跳ね飛ばされた。
バイクの乗り手は重症を負ったが意識はあった。
翔太は・・・
病院のソファーで美穂は眼を閉じて考えた。
自分が生きている限り人を愛する資格も愛される資格もないんだと。
自分が死ぬか恋をしないかでないと代償は支払えないんだと。
今でも悔やむ。
自分の軽率な行為、人を恨むその心。
病室のドアが開いた。
奇跡だった。
翔太の意識が戻った。
涙が出た。
本当にありがとう。
もう本当に。
本当に良かった。
小学校4年生のあの出来事。
あれは父親と母親に向けての呪いだった。
しかし両親には効かず、代わりに祖父が亡くなった。
呪いが本人以外にかかってしまうということは実際ありえない。
ただ、人を呪ったことで一生悔やむ自分がいるなら
最初から人を呪うような行為はしないほうが
精神衛生上良いのは確かである。