豚袋でございます。

秋らしい爽やかな天候が続き「今が一番いい気候じゃないかな」と思えるほどではないですか？仕事のつらさとは対照的に、気分的な部分はいい塩梅で推移するこの頃でございます。こうした気分の時には爽やかな音楽や秋のメランコリックな哀愁を感じさせる音楽をを聞くのが普通なのでしょうが、そこは天邪鬼な豚袋（笑）そうはイカないなんとやらです。前回ライト記事でマイク＆メカニックスをとりあげましたが、未だワタクシの耳は1985年にとどまってしまっております。というわけで、1985年の名盤をまたひとつ取り上げたいと思います。プリンス＆レボリューションの「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」にしようと思います。なお、殿下はyoutube等著作権規制が最も厳しいミュージシャンのため、動画のない、音だけの貼り付け記事になりますのでご了承下さい。

プリンスのアルバムは前期のみほぼ聴いております。ファーストからその全てがいいアルバムだと思いますが、とりわけ好きなアルバムはダンスミュージックとしての集大成的な完成をみた「1999」。ひとつ挟んでこの「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」この2枚が図抜けて好きです。プリンスで最もブレイクしたアルバムは言わずもがな、「パープル・レイン」でありましょう。ロックとファンクの融合のロック寄りの最高峰と化したアルバムである事に異存ありません。そして彼のキャリアの中でその志向が最もポップに振れた物でした。何よりも全世界で1500万枚以上売れた実績が証明しております。そうした成功の直後のアルバムがこの「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」でした。

"Paisley Park"

ジャケットからして前作からの「転換」「変化」を感じさせておりましたが、音の方も最初に聴いたときには途惑うほどでした。中近東的な音と音階、ぴゅるひゅる笛のような音が終始まとわりつく違和感。前作のロック・グルーブの延長では考えられない音でした。次の曲「Paisley Park」に至ってはまるでふざけたような脱力感丸出しのリズムと、無気力なコーラス。ペイズリーはサイケデリックのアイコン的な図柄で、タイトルから想起されるドラッギーな感覚とはちと違っていて、これもまた違和感。違和感はあるけれども嫌悪感はまったくない。むしろこれだけ実験的な様相であれば…と次の音を期待している自分がおりました。違和感続きで来たワタクシの耳に、ほどなく入ってきたこのチューンが前出２曲がウォーミング・アップであったかのように高らかに響きました。

"Raspberry Beret"

フラワームーブメント華やかなりし頃の妙な明るさと、ドラッグでラリっていながら愛と平和を説く楽天性をまるでわざとリヴァイブさせたような、明るくキャッチーなキラーチューン。前回のアルバムで支配的だったロック・ファンク・グルーブとはまた違った、ポップながらもどこかドロドロしたグルーブ感は当時でも（今でも）驚くほど新しい感覚のものだったように思います。

プリンスは19歳で既にメジャー・レーベルのワーナー・ブラザーズと契約し、しかもセルフ・プロデュースを条件とする権利を勝ち取るという、破格のデヴューであったようです。ただいかに天才とは言え、契約の重さと「とりあえず商業的に成功する事」に対しての使命感と重圧はきっとあったのだと思います。「1999」までの彼はそういう見地でいくとかなり当時あったニューウェイブ寄りのアプローチもしていて、本来的な持っているものを押えて「売り」に控えめに迎合していたような気もします。しかしながら「1999」でダンス・チューンを完成させたのをとっかかりに、前作の「パープル・レイン」で圧倒的なセールスをあげたことによって、そうした商業的成功への精神的負担から開放されたのではないでしょうか。その反動でこれだけやりたい事、実験的アプローチに振れた事は明白でありましょう。

「コマーシャリズムが何たるか」をわかった上での実験性と、コマーシャリズムの破壊から始まる実験性は雲泥の差があります。前者の代表はもちろんビートルズの「サージェント・ペパーズ…」であり、後者はポップ・グループに代表されるポスト・パンクの連中にありがちです。多くの人の心を揺さぶる実験は当然前者なくしてはありえません。そうした意味では、このアルバムは「サージェント・ペパーズ…」へのプリンス的オマージュ（アルバムジャケットなんてもろ意識的だと思いますね）であり、ビートルズが見た「高み」と同じ地平に立った瞬間だったのではないか、と思ったりします。

当時のエレポ全盛のデジタル音中心の時代にあって、逆行するかのようなアナログ音使いとアナクロテーマの採択による独特の懐かしさと温もり感と新しさの邂逅は、とりわけ異質だったように記憶しています。しかしながら結果としてデジタル音の風化が顕著な現在、まるでこうなる事を予測していたかのようにプリンスの採択は風化せず未だに新鮮な音として存在している事実は、やはり彼が非凡なる才能を有した本物の天才であることの証であると思います。

ラストソングを聴きながら、本日はこの辺で。それでは、また。

"Pop Life"

PRINCE & THE REVOLUTION / AROUND THE WORLD I