豚袋でございます。今年はまだあまり暑さを感じませんが、夏でございますね。すでに私は夏バテ気味ですが。お仕事も夏休みに週末から入られる方もいらっしゃる事と思います。アパレル業界の8月は年間でも最も売上の低い月です。そのせいもあって景気が順調な頃はこの暇な時期に「改装」「新規開店」というものをやるのが通例であるのですが、今年は不景気で改装も新規もないので（撤退はあったりする・泣）ひさびさに連休がとれそうな予感です。といってもいつも予定が決まらないので結局田舎に帰ってオワリなんですがね。皆様充実した夏休みをお過ごし下さいね♪

夏の季節を迎えると、豚はいつも1985年の夏を思い出します。自分の人生の中で、もっとも怠惰で何も生み出さず、浴びるほど酒を飲み、ディスコで無為にそしてだらだらと過ごしてしまった夏。音楽にひたすら溺れていた夏。日航機の墜落がそうした自分の怠惰さが引き起こしたと、勝手に自分を責めた夏。そんな夏に流れていた音楽は非常に優れたものが多かったように思います。洋楽アルバムの当り年で例えば、ジーザス＆メリーチェイン｢サイコキャンディー」、スクリッティ・ポリッティ「キューピッド＆サイケ８５」、ティアーズ・フォー・フィアーズ「ソング・フロム・ザ・ビッグ・チェアー」、デッド・オア・アライヴ「ユースクエイク」、スタイル・カウンシル「アワ・フェイバリット・ショップ」、ザ・スミス「ミート・イズ・マーダー」などちょっといいラインアップだと思いませんか？USA FOR AFRICAがあってライブエイドがあって、日本人が一番洋楽と接点を持った年ではなかったでしょうか。

そんな1985年の素晴らしいアルバムラインアップのひとつがこのユーリズミックスの「ビー・ユアセルフ・トゥナイト」でした。ユーリズミックスのアルバムの中で一番お気に入りのアルバムです。

世はまさにエレポ全盛の頃でありました。シンセサイザーがマニアックな音楽のためのものでなく、一般化してきた時期でした。無機的な音に、有機的なソウルフルな声を掛け合わせることにより、メロディを血肉化したポップミュージックの確立。そうした志向のバンドが幾多もおりましたが、中でもユーリズミックスはずば抜けた存在であったと思います。デイヴ・スチュワートのサウンド構築能力も当然あるのですが、それは明らかにアニー・レノックスの、ルックス含めた部分の、圧倒的なヴォーカルキャラクターの存在感によるところに他ならないでしょう。その力量を遺憾なく魅せ付けたのが皆さんもよくご存知のこの曲でありました。

There Must Be An Angel(Playing With My Heart)

最初にこの曲を聴いたときは「度肝抜かれた」という表現がぴったりでした。高音域のハイトーンボイスをまるで踊っているかのように自由に操るそのボーカリゼーションのインパクトといったら、自分にとってはピンク・フロイドの「虚空のスキャット」、あるいはケイト・ブッシュの「嵐が丘」以来の衝撃だったと思います。しかもポップで一度耳にしたら忘れないどこか温もりのあるメロディー。ハーモニカを吹いているのは何とあのスティーヴィー・ワンダー！この一曲があるがゆえ、このアルバムの評価は決まったようなものでした。

ＭＴＶのブレイクの波に乗る形で、そのユニセックスな容姿とクールな感触のサウンドで「スウィート・ドリーム」(このアルバムも好きでしたが）で一気に台頭した彼ら。「タッチ」、映画「1984」のサウンドトラックと順調なリリースと着実にビッグヒットと話題を重ねてきましたが、クールでイメージ先行型・演出過剰型の感があった面も否めませんでした。またサウンド形態としてのエレポップはもう飽和しつつあったようにも思います。このアルバムがそれまでと違うのは、大胆なソウル・ミュージックへのアプローチ、舵取りによる転換が成された事です。そして結果として風化しない「普遍性」をもつサウンドを手に入れる事に成功したと思います。

Eurythmics It´s Alright (Baby´s Coming Back)

アニーのボーカルの魅力は高音域と低音域の自由自在感・縦横無尽感にあると思います。また黒人に負けないパワフルさも魅力です。今までのアルバムでは全体のサウンド構築を優先するあまり、彼女のボーカルも感情を抑制したような部分もあったのですが、このアルバムではソウルフルに感情も剥き出しに開放しています。他のアルバムにはないくらい伸び伸びした雰囲気が感じられ、それがいい結果を生んだように思います。

また豪華多彩なゲスト陣もプラスとして働きました。前出のスティーヴィー・ワンダー始め、エルビス・コステロ、「トム・ペティ＆ハートブレイカーズ」のメンバー、そして何といってもソウルの大御所・アレサ・フランクリン！そうした一流どころとのシナジー効果も絶対あったのでしょう。

このアルバムのあと、エレポがその役目を終え下火を迎えてもまだまだユーリズミックスは売れました。それはやはりこのアルバムによって音楽性の転換を上手い形で移行できたことと、音楽的背景が本物であったことの証明でもありましょう。次のアルバム「リベンジ」は全世界で1500万枚も売ったとの事。アルバムを出す度に売れるミュージシャンの仲間入りを果たしました。（90年には解散、99年に再結成しているようですが、もう最近の興味は失ってしまいました。）そのバイオグラフィーの中でまさにターニング・ポイントとなった記念碑的なアルバムであったのだと思います。

最後に大御所・アレサ・フランクリンとの奇跡のデュエットを聞きながら締めさせていただきたいと思います。それでは、また。

Aretha Franklin & Annie Lennox - Sisters Are Doin' It For Themselves

EURYTHMICS / BE YOURSELF TONIGHT (1985)