豚袋でございます。ゲリラ豪雨があったりしますが、大方梅雨らしくない天気です。ひっそりと紫陽花が咲いているのを見かけると実感もあるのですが、はっきりしなさ加減が何ともいえない季節感をかもし出しております。弊社のメインの販売チャネルであります百貨店は安売りやら下取りやらキャッシュバックやら囲い込みに必死にならざるを得ないくらい、記録的な不振が続いている状況です。低価格や値引き以外に「価値」というのは今の世の中に存在しないのないのでしょうか？思わず叫びたくなる今日この頃ではありますが、最近テレビをみていましたらえらく懐かしい音が耳に飛び込んでまいりました。ふっと画面に目をやりますとスバル自動車のLEGACY OUTBACKのCMでした。今回はその音楽が入っている名盤、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの「エレクトリック・レディランド」を取り上げたいと思います。

最初にこのＣＭで使われていた曲をまず聴いていただきましょう。

ジミ・ヘンドリックスに抱いているイメージは「ブルージー」でかつ「即興的」で「早弾き」で、そしてギターを燃やしたり歯でギターを弾いたりするパフォーマンスに代表されるように「過激」、あとは「ドラッグ」。そうしたものが多いのではないでしょうか。最初に聴いた時この曲はそうしたイメージの強いジミヘンにしては、かなりスタイリッシュでメロディアスな感じに思いました。（デイヴ・メイソンがバックコーラスをやっているせいもあったかも知れません。トラフィックのギタリストがクロスタウン・トラフィックという曲のバックを務めるというまるで駄洒落のような豪華ゲストミュージシャンでした。）そうした特徴を見事についたＣＭ曲採用に、プランナーのセンスを感じ思わず「やるなぁ」と感心してしまいました。

ＣＭソング絡みだったので話が前後してしまいましたが、ジミヘンのスタジオアルバムとしては3作目。当然リアルで体験をしておりません。ジミヘンを最初に聞いたのはファーストの「アー・ユー・エクスペリエンスト?」で、中学3年くらいの頃だったと思います。この「エレクトリック・レディランド」を購入するのはもっと後になってからでした。今でこそこのアルバムのジャケットは上のようなジミの顔ジャケで統一されているようですが、当時の国内盤は英盤と一緒で下の画像のような女性のヌードジャケだったので、思春期の豚にはスコーピオンズの「ヴァージン・キラー」同様、購入自体が勇気のいるエロジャケであった事が理由である事は言うまでもありません。(ベスト盤やコンピでこのアルバムの名曲群には接しておりましたが。）でも自分にとってのこのアルバムのヴィジュアルがしっくりくるのは、例えジミ本人も不満を持っていたとしてもエロジャケの方なのは如何ともしがたいところです。

そして肝心のサウンドですが、これはもうファーストと甲乙付けがたい名盤であると思います。ファーストはあらゆるロック・ギタリストの価値観をひっくり返した「ギター革命」とも言える衝撃的なサウンド、テクニック、インプロヴィゼーションの塊だとすると、セカンドの実験的要素へのアプローチを経て、このサードはさまざまな音楽とのミックスを試行し新しい音楽の創生を目指した「ロック革命」とも言うべきパッションに溢れているように思えます。それはかつてない豪華な参加ミュージシャンの名前を見ても明らかですし、スタジオワークを重視したそのサウンドを聴いても大きく感じるところです。奔放なライヴの魅力に対し、スタジオワークでは緻密で地道なオーヴァー・ダブと重層なエフェクター処理等によって独特な音響世界を作ろうとしていたように思います。

アレンジャーとしての才能開花は結果としてサウンドスケープの劇的な広がりと圧倒的なグルーヴ感を生み出し、そして様々な表情を持った楽曲群が生まれていったのだろうと思います。そのひとつの例が4曲目の「Voodoo Chile」。15分近いスローブルースセッションは、物悲しいブルースのトーンの中に独特の浮遊感と困惑を感じながら、エナジーあふれる緊張世界へと誘われる事こと間違いなしと思います。(オリジナルのヴァージョンを探しましたが、ようつべの規約違反の長さなので見つからず、別テイクを貼りました）ゲストもキーボードはトラフィックのスティーヴ・ウィンウッド、ベースはジェファーソン・エアプレインのジャック・キャサディとこれもまた何かを生み出しそうな面子です。（誤解しやすいので言っておきますと、このアルバムのラストを飾るジミの代表曲として名高い「Voodoo Child」は正式には「Voodoo Child (Slight Return)」であり、この「Voodoo Chile」とは似て非なるものです。）

Jimi Hendrix - Voodoo Chile

このアルバムは名曲が多く、どれも紹介したいところですが、この「Voodoo Chile」の後も見逃せない曲群が続きます。ジミの敬愛するギタリスト、アール・キングの曲をハードに昇華した「come on」、ブルースの音階にありながらファンキーにリズムとギターが炸裂するナイスナンバー「Gypsy Eyes」、サックスを導入してジャジーなサウンドの中にも激しいギターサウンドが被ってゆく「Rainy Day, Dream Away」と全ての曲が完成度とテンションを持っており、素晴らしい構成となっております。

しかしながら、やっぱり圧巻なのはラストの2曲。ひとつはボブ・ディランのカバーで「All Along The Watchtower（見張り塔からずっと）」。ディラン本人もジミのアレンジに感銘を受けたと言われ、彼をして「この曲は俺が書いたが、権利の半分くらいはヘンドリックスのもの」といわしめたほどの名カバーらしく、確かに原曲に違った生命を与えたような躍動感があります。ゲストもなんとあのストーンズのブライアン・ジョーンズがパーカッションを務め、前出のデイヴ・メイソンが12絃ギターを担当するという豪華さ！(残念ながらスタジオテイクがなかったので、ワイト島のライブを…）

Jimi Hendrix - All Along The Watchtower

ジミの歴史に関しては、皆様よくご存知だと思います。ネットでもあらゆる情報を知ることができます。特にwikipediaを見ればロックミュージシャンとしては異例の圧倒的情報量がありますので、参照していただけたらと思います。私の口から彼を語るのはおこがましいほど「神」としての記録がそこここに溢れていると思います。

このアルバムによって私にとってのジミは革新的ギタリストであり、ソウルフルでエモーショナルなシンガーであり、ロックミュージックの既存の枠を取り払った実験的精神溢れるアレンジャーとなりました。またこのアルバムは、全体を支配する麻薬的な陶酔感、寂寥と哀愁の調べと対比して際立つ爆発的エネルギー、まさに「塊」というにふさわしい圧倒的なジミの存在感を凝縮したようなパワーによって、もっともジミが輝くことのできたアルバムであったのでしょう。

最後にまさにそうした輝きを象徴するかのような、アルバムを代表するラストナンバーで締めたいと思います。

それでは、また。

Jimi Hendrix - Voodoo Child (Slight Return)

JIMI HENDRIX EXPERIENCE / ELECTRIC LADYLAND (196