豚袋でございます。早くも6月・水無月となりました。これから時期的には梅雨という嫌な季節を迎えますね。水無月って最も水に関係ある月なのに何で「水が無い月」なのだろうって思いませんか？諸説いろいろあるようですが、「田植えで水が必要になるため天の水が無くなる月」という説が一番日本人土着的解釈として「なるほど」と思います。ワタクシの仕事的に言うと6月は、父の日商戦で多少忙しい月でありバーゲン前で準備やら商談やらなんやかんやといろいろある月で、いずれにしろあまりいい思いのない月でございます。

そんな季節の話とは全く関係なく、豚袋の今の音楽的な気分としては結構いまだに初期パンク流れで時代が止まっています。ここまで長く懐かしみこだわるのも自分としても久しぶりではございますが、もうひと記事だけお付き合いいただこうかと思います。今回の記事もアラウンド・パンク、略してアラパン（誰も言わねぇよ・笑）な時代を駆け抜けた骨太バンド・ストラングラーズの「ブラック＆ホワイト」を取り上げたいと思います。

ジャムの記事の時にも書きましたが、ピストルズ＆クラッシュをロンドン・パンクムーヴメントの本流だとすると、亜流というかオルタネイトな流れのひとつがジャムであり、またメジャーでありながら孤高の別流を歩んでいたのがこのストラングラーズではなかったか、と思います。そのサウンドは激しくもリード・ベース、キーボードフィーチャーという圧倒的に差別化された独特のものであり、またその主張とインテリジェンスに裏打ちされた文学的ともいえる精神性は「くず(＝パンク）」と称するにはアートな感性値が高かったようで、まさに孤高の存在であった事は間違いないでしょう。

tank

この曲を聴いただけでも異質な手触りを感じていただけると思います。今聞くにデイヴ・グリーンフィールドが奏でるシンセは少し時代がかったように聞こえなくもないですが、当時としてはかなり斬新な音でありました。またヒュー・コーンウェルのやや抑え目ながらも内に秘めたアグレッシヴなボーカルも印象的。そして何と言ってもビキビキ入っているジャン・ジャック・バーネルのベースの凄さ！当時パンクとしてカテゴライズするしかなかった新しい感触の音楽だったのではないでしょうか。多くのパンクがロックンロール先祖がえり的なルーツであったのに対し、どちらかというとそのキーボードはプログレ隣接のクラシックルーツで、サイケデリックロックの影響下にあった事を想起させます。

The Stranglers - Sweden

1977年「野獣の館」でデヴュー。時代的にはパンクの嵐と同時期でありましたが、オルガンをフィーチャーし、ポリティカルながらも観念的な歌詞と言えば「ドアーズ」の流れであった事は想像に難くないです。本人たちも影響を認めているようです。しかもバキバキ・ゴリゴリの硬質なジャン・ジャック・バーネルのベースは演奏スタイルにおいて革新的だったと思います。パンク界のジャコ・パストリアスと言っても過言ではないでしょう。ベースがメロディを刻む「リード・ベース」ともいえるスタイルは彼独自の物でした。セカンドの「ノー・モア・ヒーローズ」で「ヒーローはもういらない、各人がヒーローたれ」という主張はパンクの中心オーディエンスであった労働者階級の共感を大いに呼び、その地位を確固たるものとしました。そして絶頂期を迎えた集大成がこのアルバム、「ブラック＆ホワイト」でありましょう。間違いなく名盤です。アナログ当時はＡ面がホワイトサイド、Ｂ面がブラックサイドと呼ばれ、前者はポップで後者はシンセを中心とした実験というニュアンスで分けられていました。上記の2曲はホワイトサイドですが、以下2曲をブラックサイドから選曲したいと思います。

The Stranglers - Curfew

ストラングラーズは個性的なメンバーの集まりでもありました。構成からして「異端」を感じさせます。Vo&Gのヒューは生物学の学士のスウェーデン人、Bのジャン・ジャックは三島由紀夫と極真空手を愛するフランス人、Keyのデイヴはクラシック畑の出身で、Drのジェット・ブラックに至っては大規模な酒屋の経営者として成功していながら、37歳でバンドに参加した変り種しかも元ジャズ・ドラマー！そうとう生業からして個性的です。多くのパンクバンドが若く、労働者階級を中心としていたのに対し、相当なインテリジェンスを持った人生経験もすでに豊かなバンドであったのは極めて異質でした。また行動的にもかなり攻撃的で、右翼団体との格闘、ストーンズ楽屋襲撃、クラッシュとの乱闘などそうとうな暴力性を露出しており、何をしでかすかわからない狂気の面を持ち合わせていたようです。

「知性」と「暴力性」という相反する要素。純粋なイギリス人ではない「異国性」と明確なポリティカル・アティチュード。色々な意味での異化要素を持ちながら、危ういバランスとギャップのメルトダウン。そうした背景を持ちながら独自の音楽を作り上げていったのは、まさに稀有なケースのバンドで「孤高」「異端」という賞賛の言葉が似合うと思います。また今回いろいろ聞きなおしてみると、ジャンジャックのベースばかりに気を取られておりましたが、実はジェット・ブラックのドラムが出色で素晴らしさを感じました。よくストラングラーズは演奏が上手いと言われますが、その背景はリズム隊にあったのだと改めて思わさせられました。

残念なのはこのアルバムを出した後、徐々にその暴力的な匂いが薄められて、シンセを中心としたヨーロピアンエレポな方向に行ってしまった事です。相当ポップになってしまいましたが次のアルバム「レイヴン」までが先鋭的で暴力的な要素を感じさせるギリギリだったように思います。ヒューが脱退しながらも未だに他のメンバーで現役で活躍しているようですが、このアルバムをピークとして豚の興味も薄れていったのでした。ジャンジャックは親日家で、日本にもよく来ているようですね。日本のバンドARBのキースと友人関係にある事は有名で、ほんの一瞬ですが脱退メンバーの代役でARBのメンバーとしてツアーを回るというインクレディブルなニュースには当時相当びっくりしたのを憶えております。（参考までに当時のツアー映像を探したけどなかったのでちょっと後のARB解散ライブ時のものですが、こちら…うーん…微妙…）

ジャンジャックが敬愛してやまない三島由紀夫に捧げた「仮面の告白」へのオマージュ。この曲を最後に締めたいとおもいます。それでは、また。

The Stranglers - Death & Night & Blood

THE STRANGLERS / BLACK & WHITE (1978)