豚袋でございます。GWは天気に恵まれた日が続きますが、皆様いかがおすごしでしょうか？

いつもの事ですが、ワタクシどもサービス業は皆様のお休みが稼ぎ時。というわけで通常のワークスケジュールで働いております。最近は豚インフルエンザの話題が世間を賑わせるものですから、豚というＨＮを使っているだけで他人事とは思えない錯覚に陥っております。擬人化の本人同一化が進んでいるようです。ウソです（笑）

パンクの時代をもうちょっと振り返ってみたくなりました。

パンク・ムーヴメント華やかなりし頃というのは、本当にバンドの数が多く生まれたような気がします。とにかく皆ピストルズにインスパイアされ、衝動的な部分のみをなぞり、ちょっとラウドにちょっと速で激しく演奏してちょっと攻撃的な歌詞をつければ誰でもパンクスを名乗れた時代であったのも事実。一般にロンドン・パンクといえばピストルズ、クラッシュ、ダムド辺りが大御所で、その後にバズコックスやらスージー＆バンシーズやらジェネレーションＸやらが続き、といったところでしょうか。そうしたバンド達はその後自らのアイデンティティー音楽を確立していきましたが、スタートはやっぱりピストルズインスパイアで、わりとシンプルなコードによるロックンロールベースのティピカルな音楽で始まったような気がします。

そうした典型としての主流がある一方で、パンクのよかった事のひとつは「様式美」からかなり自由であったことでしょう。つまり何でもアリだった訳ですね。レベル・ミュージックという反逆・反体制的な意味合いさえ踏襲してれば「パンク」としてカテゴライズされたという「大きく広範囲な解釈性」が、時代ともあいまってブレイクした大きな要素だと思います。そしてその精神的な「アティテュード」は後のポスト・パンク～ニュー・ウェイヴへと受け継がれていく発展性へと繋がっていったのではないかと。（クラッシュのロンドン・コーリング以降の音楽的発展的変化は非常に象徴的であったと思います。）

そうした中で「パンク」バンドとして認識され人気を博しながらも、圧倒的にピストルズ系とは流れが違うバンドがありました。私が思うにそれは孤高の硬派バンド・ストラングラーズと、ここで取り上げますモッズ・リヴァイバルの立役者、敬愛するポール・ウェラー率いるザ・ジャムではないかと思います。

ジャムはその演奏の激しさ、ストレートかつソリッドで疾走感あふれる音楽性（演奏力が確かで安心して聞けることも大きい）でファースト「IN THE CITY」からして他のパンクとは一線を画していたような印象があります。当時ポール・ウェラーはまだ19歳！青くて荒削りながらもその直情的でハードなリズムギターとルックスに似合わぬ硬派でマスキュリンな声が素晴らしく、一発でファンとなってしまいました。ベースにある音楽もファッションも他パンクスとは違い、明らかにフーの影響を受けたモッズにある事は明白でした。「フーの音楽をちょっと速めにソリッドに演奏するとジャムになる」的な感覚。これはあまりフーを聞いていなかった私でも納得できる表現ではないかと思います。

ファーストのブレイクの後に出したセカンド「ザ・モダン・ワールド」の惨々たる評価と挫折の後、よりポール・ウェラーの本来的志向を明確にして勝負をかけたアルバムがこの3枚目「オール・モッド・コンズ」であります。

All Mod Cons

ウィキによると「"all mod cons" は "all modern conveniences" （近代設備完備）の略で、イギリスの住宅広告で使われていた慣用句」だそうです。私も初めて知って勉強になりました。でもタイトルからして自らのアイデンティティーというか立ち位置に引っ掛けたのは明白で、非常に力強く感じます。

And all the time we're getting rich,

You hang around to help me out

But when we're skint, Oh God Forbid!

You drop us like hot bricks

Artistic Freedom！ Do what you want.

But just make sure that the money ain't gone

”金回りのいい時には寄ってくるが、そうでなくなった途端焼けたレンガのごとく放り出す

芸術の自由！好きなようにやってごらんよ、金がなくなっちまうのは確かだぜ”　てな感じでしょうか。

…よっぽどセカンドの失敗が悔しかったのでしょうな。その悔しさがこのアルバムの原動力となったのでしょうね、戦いの宣言というか。ジャムは歌詞がまた優れていて、ポップな音楽性ながらシリアスというか若いのにかなりシニカルというか先鋭的というか（左翼的思想に傾倒していたらしい）なかなか独特な世界が歌われています。

A-bomb in Wardour Street

ウォーダー街で爆弾が爆発したならどうなるのか、そのシーンを生々しく歌い上げています。血まみれで爆風によりすべての秩序が無に帰した世界。皮肉とユーモアを交えながら、この何倍もの事がフィリピンで起こっている！と締める風刺の歌です。ウォーダー街の「A」爆弾とは、「Atomic」の隠喩のような気がします。まあ、こうした社会的問題意識も持っているわけですね、ワーキングクラス・ヒーローとしては。

音的にもこのアルバムは意欲的に進化しようとしていました。それはキンクスの曲「デイヴィッド・ワッツ」のカバーだったり、アコースティックギターによる「イングリッシュ・ローズ」だったり、自らの憧憬である1960年代のポップス、とりわけモータウンサウンドへのオマージュが随所に感じられるところを見てもあきらかだと思います。良質でポップな音楽性とシリアスなリリックの世界観。この一見して相反する要素が見事に昇華されたとても素晴らしいアルバムだと思います。そしてポール・ウェラーの素敵なところはやっぱり「純粋」なところではないかと思います。政治的思想がどうだとか、ノンポリの豚としてはどうでもよく、ひたすら自らの嗜好や音楽に真摯であるその姿勢はとても好感が持てるところだと思います。またそのちょっと青臭い正義感を感じる歌詞の世界が、自分には妙に共振してくるのがたまらないんですね。ジャム解散後のソロでもその感覚はずっと一緒なのが不思議です。自分に合っているのでしょうね。

締めの曲はこのアルバムのラストソングにしたいと思います。歌われている内容については、要約すると真夜中に地下鉄駅で家路を急ぐ途中に暴漢に殴り殺された若者を歌ったものです。曲中に出てくる、家で待つ妻のためのワインとカレーが無残にも床にフラットに拡がっていく無常観…ロンドンのありがちなダークサイドの風景を切り取った曲です。うーん、非常にヴィジュアルな表現をする人なのだな、と思います。しかも一人称歌詞なので一歩まちがうと、さだまさし的になりそうな危ういところですが（笑）でもやっぱりポール・ウェラーの兄貴はカッコよくキメて下さるのでした。

本日はこの辺で…それでは、また。

Down In Tube Station At Midnight

THE JAM / ALL MOD CONS (1978)