久し振りに映画「ミツバチのささやき」を観ました。本当に切ない幼心の映画です。理解するのに骨が折れる映画でもありますが、まったくわけのわからない難解な作ではない。観客を煙に巻くような映画とは全く違う、ある種の反戦メルヘンとでも言うべき作。まじめに観ているとアナの想いとシンクロしてしまう。不思議な映画。

フランケンシュタインの映画を観てイザベルの言う「怪物は精霊なのよ」のことばを信じてしまったアナ。やがて〈精霊〉が村はずれの空き家にいるとイザベルに教わったアナはこの空き家にちょくちょくたった一人で〈精霊〉探しに出かけます。イザベルはアナより世間ずれしていていたずら好き。けれどもやっていることはいたずらの域を出ない。けれども、アナの行動はいたずらの範疇を逸脱した真の冒険。ある日軍用列車を脱走して兵士が一人空き家に隠れていました。純真なアナは脱走兵を〈精霊〉と信じてしまう。〈精霊〉に林檎をあげるアナ。やがて彼との間にある種の情愛が通い始めます。ですが、そのすぐ後脱走兵は追手に見つかり、射殺されてしまう。アナはそのことを知る由もありません。〈精霊〉のことをパパにもイザベルにも言えずに内緒にしているアナ。彼女は〈精霊〉が実は脱走兵であり、出逢ってすぐ射殺されてしまったことも知らない。そして或る夜〈精霊〉を探しに山に入ったアナは水辺で〈怪物〉フランケンシュタインに逢います。イザベルの言った怪物が〈精霊〉の化身であることを信じて疑わないアナ。アナは今夜も怪物に逢いに行きます。「私はアナです」。

主演のアナ・トレントは自分の演ずる役名が本名と同じ〈アナ〉だったことが〈災い〉し、映画と言う虚構と現実の出来事を区別できなかったとヴィクトル・エリセ監督はインタビューに応えて言っていました。彼女は本作の主人公アナを自分と取り違えていたのです。つまり彼女は本作で演技をまったくしていない。というか、演技をしている自覚がない。この映画の中にいる少女アナはアナ・トレントそのものなのです。