少し緊張して
朝の仕事に向かいました。
 
 
久しぶりの利用者さんに
会うのです。
 
 
その利用者さんの名前は
ヤスコさん(仮名)




その当時は、
ヤスコさんは大きな病気を克服して
 
 
足腰は痛くて
自由が利かないけれど
 
 


出来ることは
自分でやるようにしている
 
 
そう言って
料理の準備を一緒にしたり
 
 
味付けを
教えてくれたりしていました。
 
 
 
何でもできていたころは
綺麗好きで、料理も上手で


 
町の采配振りの
気のいいおばちゃん
 
 
そんな感じだったんだろうなぁ
と想像できるくらい
 
 
バイタリティーのある
気力がとても強い方で
 
 
 
そういうヤスコさんから
いつも元気をいただいていて。
 
 
 
 
なのに、
今回どうして『行きたくない・・』
って思うくらい、緊張しているのか
 
 
 
それは
長い間、彼女と関わっていない
というのと
 
 
彼女の最近の噂。
 
 
 
 
前より怒りっぽくなった
嫌味をいうようになった
 

そういうことを
よく聞いていたのです。
 
 

わたしには
たいていの噂は通用しない。

 
 


のでいつも流してしまうのだけれど
 
 

もし、機嫌が悪かったらどうしよう
長い年月の間に変わったのかもしれない。。

1時間、耐えられるかしら。。

 

そんな思いが
浮かんでは消え、
浮かんでは消えていく。

 
 
昨日、
ずっと
そういう思いと一緒にいながら
 


 
わたしは明日
どんな心でいけばいいのかしら? 
と考えていました。
 
 

 
ヘルパーを始めた頃は
利用者さんの噂を
まず自分の中でクリアにして
 
 
その人の情報は
介護に必要なものだけを覚えておいて
性格などは聞いても
忘れるようにしていました。
 

 
 
そして、
その人の笑顔をイメージして
出てくる不安を全て消して
訪問していたのです。
 
 
 
 
でも、最近は
そういうことをしなくても
 



ほとんどの利用者さんと
なんの問題もなく
楽しく過ごせていました。
 
 
 
昔と今の心の準備や意気込みの
違いを思い比べながら
 
 

気づいたんです。



いまは何も準備をしていない
ということを。
 
 
 
それはどういうことなのだろう?
 


 
 
昔は
自分をリセットして無にしていたから
相手に委ねていたから
 
 
どんな気難しい人とも
笑顔で朗らかな時間が過ごせていた。
 
 
 
そう思っていました。
 
 
 
 
でも、いまは何もしないのに
そういう状況が起こる。
 
 
 
もしかしたら
 

 
その人のことを
ふと思うだけで


『繋がる』のではないか。
 
 
 
 
わたしはそう思い
 
 

ヤスコさんの顔を
思い浮かべ
 
 
 
別に深く考えもせず
いつものように
少し遅い時間に休みました。
 
 
 
 

そして朝
緊張したまま
20分ほどの道のりを運転。
 
 
 
山をひとつ越えていくのですが
 
 
朝もやが山の上がっていくのを
見ながら
 
 

目の前に幾度も現れてくる
清々しい緑を見ている間に
 
 
 
わたしは落着きを
取り戻していました。
 
 
 
自然はいつもサポートしてくれる。

 
 

 
そして
久しぶりの再会。


 
 
車を駐車場に止めて
少しゆっくりめに歩く。
 
 
 
昔と同じ場所で椅子に
膝掛けをかけて座っている彼女。
 
 
 
 
お久しぶりです。
 
 
 
というわたしの言葉に
ヤスコさんはわたしの顔を見ながら、
誰か忘れたと言った。

 
 
わたしは
笑顔で、(もちろん)それでもいいんです。
会えて嬉しいです。と伝え
 
 

昔の話をしようとしたら
急に涙が溢れていて
 
 
 
 
ごめんなさい
涙が出てきちゃって・・・と拭いた。


 
涙の主は
あの頃のわたし。



毎日辛かった、苦しかった時間を
ヤスコさんが大きな愛で
癒してくれていたのを思い出しました。 


 
ヤスコさんは
昔と何も変わらない話し方で
昔と何も変わらない心で
 
 

わたしに掃除をする場所と仕方を
教えてくれました。
 
 
 
息子さんが
お風呂と洗面所を
リフォームしてくれたことも
話してくれたりして。
 
 
 

優しい息子さんでしたよね。
いつも帰ってくるとき
フトーブや、絨毯など
 
ヤスコさんに必要だと思うものを
買ってくれくれてましたよね。
 

 
そういうと
わたしの顔を見て
それほど驚いたような顔はせず
 
 

息子さんが
今までやってくれたことを
いくつかわたしに話してくれました。
 
 


 
そして
ヤスコさんは昔のように

掃除は丁寧にしなくてもいいこと。
 
 
早く終わったら、時間までいなくても
帰ればいいことを伝えてくれて

 

 
わたしは嬉しい気持ちいっぱいに
心を込めて掃除をさせてもらいました。
 
 
 
 
掃除機をかけているときも
たくさん話をしてくれています。
 
 
 
 
聞き取りにくいけど
話してくれるのが嬉しくて
 
 

 
時折、掃除機を止めては聞き
返事をして、また掃除をする
 
 
 
そんなことを繰り返していました。
 
 
 
今日の天気は雨
 
だけど 

家の中は
とても暖かい気持ちと、優しい思いで
満たされていました。
 
 
 
 
「もういいよ、終わりなよ。
時間になってきたからね。」
 
 

昔と変わらない
いつものヤスコさんの優しい言葉に
わたしは娘になったかのように
 
「はーい」

 
と返事をして、
掃除機を片付け始めた。
 
 
 
 
ヤスコさんは
何ひとつ変わっていませんでした。
 
 
 
 
本当はやってほしいことを
先に言って
 
 
あとで必ず

「別にいいんだけどさ。」
 
 
っていう
かわいい言い方も変わってなかった。
 
 
 
 
 
 
何もかわらないものがある
  

 
 
 
『こころ』
 
 
 
 
これだけは
周りがどれだけ変わっても
変わりようがない。
 
 
 
 
 
 
『こころ』
 
 
 
これがあり続ける限り

 
 
わたしはいつものヤスコさんと
過ごすことができると信じています。
 
 
 
 
 
 
 
 
ありがとう、ヤスコさん♡
 
 
 

 image