セカンド・ラブ 4-1 - 解放 -
私は病室に着くとそっと眼を瞑り大きく深呼吸をして、扉をコンコンとノックをした。
しばらくの間返事を待っていたが、何も帰ってこないので、仕方なく扉を開けて部屋に入った。
母は、こちらを見る事なくただぼんやりと天井を見つめていた。
「お母さん、木下さんは?もう帰ってしまったの?」
「ええー、さっき帰ったわ。あなたによろしくと言ってたわ。」
「そう...」
もう一度会って、ちゃんとお礼を言いたかったなあ...何か、お母さんの側にもあんな人がいるなんて少し不思議な気がする...などと少し俯いて考え込んでしまっていたら、
「あなた、ドクターから話は聞いたの?」
「えっ、は、はい。伺いました。」
突然の母からの問いに焦って答えると、
「そう...ならいいわ。まあ、そういう事だから.......もういいでしょう。わかったら早く日本に帰りなさい。あなたが帰らないとスタッフの方々に迷惑がかかるんじゃない。」
「嫌です!!」
「えっ? あなた、何言ってるの。」
思いがけない私の強い拒否に驚いて母が怯んだ。
「嫌なんです。お母さん、お願いです。側に居させて下さい。居たいんです!」
興奮した口調で訴えると、母は、こちらを向いて私に言った。
「何馬鹿な事言っているの!仕事...そう、仕事はどうするの!」
「辞めます!! お母さんお願い!、側にいたいの・・・・・私、ちっともいい子じゃなかった、…」
「100点もあんまりとれなかったし、お母さんの期待にも沿えなかった。それに、せっかく預けてくれた旅館も裏切る形で、松太郎と家出ちゃうし、あげくには勝手に芸能界にも入っしまう...私はとても悪い子だったわ!」
「だけど・・・お母さんの側にいたいの! お願い…お願いだから、許してー。これからは、いい子になるから…側に、側に居させてください。」
必死で一気にまくし立てると、スーッと力が抜けて床にしゃがみこみ泣き出してしまった。
母は、体を起こして、私のほうに手を伸ばした。
「あなた、大丈夫?言ってる事支離滅裂よ。それに・・・・・悪いのは私の方。」
「幼いあなたの世話を彼女に押し付けて仕事をとった女よ!母親の資格なんて・・・と て も、 私には…」
最後の方は、消え入りそうな声で呟き、母は私から目を背けた。
そして、しばらくの沈黙の後、意を決したように母は私の方に向き直し、重い口を開いた。
4-2へつづく