ヒール兄妹のミッションも無事終わり、私たちはまた以前の先輩と後輩の関係に戻った。

いや正確には、関係性だけが変わらないのであって、後は少し変わったのかもしれない。

結局、私は敦賀さんへの恋心を認めざるをえなくなり、もう2度と鍵をかけることはできなくなってしまった。




しかし、ヒール兄弟最後の日にいったあの言葉は、一体どういう意味だったのだろう?


「ありがとう、最上さん。君のおかげで、俺は闇を乗り越えることができた。君は最高のおまもりだよ。」


闇って、どういう意味なのだろう。BJの役柄?カースタントの事故のこと?

それとも私の知らない何かが敦賀さんの過去にあったのだろうか?

でも何か吹っ切れたような表情の敦賀さんにそのときはそれ以上聞くことはできず、握手をして別れたのだった。



私は、「BOX-R」が深夜枠でありながらも、高視聴率で終わり、ありがたくもまたドラマで役をいただき、今度はいじめ役ではなく普通の女子高生!

を楽しく演じながら毎日を忙しく動きまわっていた。




あの電話があるまでは・・・





旦那様、朝早くから申し訳ございません。

最上様のお母様の会社の同僚の木下様という方から、お電話が入っていますが、いかがいたしましょうか?


「最上君の!?すぐに回線まわしてくれ」


かしこまりました。


「はい。お電話変わりました。宝田です。」

えっ、それは、どういうことはい、わかりました。ご連絡いただきありがとうございます。至急向かわせます。」


電話を切ると、深くため息をついて、ローリィ宝田は、部下に

彼女の学校が終わったらすぐに最上君をここに連れてくるように命じた。






ふーっ、まだまだ暑いわねえ。額から滲み出す汗を拭うと、鞄から手帳を取り出し、この後のスケジュールを確認した。


「えーっと、これからTBMで坊の収録が5時からだから…」


わっ!すみません。下を向いたまま歩いていたので前にいる人に気づかず思いっきりぶつかってしまったのだ。

あわてて、おわびすると、


「大丈夫ですか?こちらこそ申し訳ございません。至急事務所のほうにお越しください。旦那様がお待ちです。」


「はい??・・・」


私は何がなんだかわからないまま、社長のいつものお付きの人に車に乗せられて事務所に連れて行かれてしまった。




失礼します。旦那様。最上様をお連れしました。

そういって、お付きの人が社長室の扉を開け、私は中へ入るようにと促された。

部屋に入ると、社長のほかに椹さんが深刻な顔つきで座っていた。


「社長、一体どういうことですか?私5時から収録があるんですよ。」


「ああ-、そっちは大丈夫だ。代理をたてている、心配するな。」


それよりも、今朝君のお母さんの会社の同僚という人から電話があって、お母さんが倒れたそうだ。今はニューヨークの病院に入院している。君もすぐに向かいなさい。

後のことは心配するな。椹君がすぐにスケジュールの調整をしてくれるから。


私は、意味もわからずただ立ち尽くしてしまった。

母が倒れたって?何でいきなりニューヨーク?どういうこと?何故?母が私に連絡してくれるように頼んだのかしら?いろんな思いがぐるぐると頭の中を駆け巡っていると、


「最上くん、パスポートは持っているか?」


沈黙を破るように社長に問いかけられたので、


「はい、以前作ったものがあります。多分まだ期限も切れていないはずです。」


思わず早口でそう答えると、


そうか、なら話が早い。すぐに飛行機のチケットの手配をするから、いったん家に戻って渡米の準備をしなさい。

そういって、社長は渡米の手配に、椹さんは私のスケジュールの調整のために急いで部屋を飛び出していった。


「最上様、お家までお送りします。」


そう言われて、私は呆然としていまだ現状が飲み込めないままお付きの人に連れられ家に戻り、その日のうちに手配された飛行機でニューヨークへと旅立っていったのだった。