グラフィックデザインの歴史と成り立ち
とりあえずこのカテゴリーでは、グラフィックデザインのセオリーというか、
「レイアウトのコツ」みたいなことを解説しようと思ってるのですが、
その前に、書体と段組のレイアウトやタイポグラフィーなどというものが
現在の形になるまでの経緯についての基礎的な知識を押さえておくべきだとも
思うので、そのへんから解説してみましょう。
専門学校でも、なかなかそこまで教えてくれない役立つ知識ですね。
で、現在使われている近代デザインは、1740年に英国で起こった産業革命と
ともに生まれたと考えられています。
勿論、デザインやアートにかかわるコミュニティの間には様々な見解が存在しており、
いずれか1つの説だけが正解というものではありませんが、1740年以降、デザインは
各種実用品の価値を表現する上で重要な役割を果たすものになったわけです。
こっちのデザインの方がイケてるからこっち買お!みたいな。
そしてさらに、印刷物の読書の急激な拡大に後押しされて、グラフィックにおける
デザインも発展し、時代とともに人々のライフスタイルや価値観が大きく変化するにつれて、
美をめぐる感覚も目まぐるしく変化していきます。
例えば、当時は学問としての美術の伝統はルネサンス時代以来ほとんど変化がなく、しかも
それは当時のモラルや信仰上の規範に支えられていため、美的な効果を高めるために
用いられていたのは新古典主義風のモチーフだけで、ゴシック建築特有のビクトリア朝の
装飾と東南アジアのエキゾチックなテクスチャとが組み合わされるような残念な例も
あったようですが、そういった調和に欠けるデザイン上のアプローチと一般消費者の
ニーズとがある種の飽和状態に達し、やがてこのような流れが衰退していった反動として、
英国の建築、絵画、デザインの分野にArts and Crafts Movementが起こるわけです。
今でいうクリエイターユニットみたいなものみたいでしょうか。
このような美的価値観の変化の歴史を知ることは、現在のグラフィックデザインの価値を
再認識するうえでの大きな手がかりになると思います。
Arts and Crafts Movement
Arts and Crafts Movementとは、アートやデザインが産業化の進む世の中に関与
していないことに疑問を抱いたオックスフォード大学の学生だったWilliam Morrisが
中心となり、画家のEdward Coley Burne-Jonesと建築家のPhilip Webbと共に、生活と
芸術を一致させることで英国の日常生活の中に美しさを取り戻そうとするデザイン思想と
その実践のことで、その運動は各国に大きな影響を与え、20世紀のモダンデザインの
源流にもなったといわれています。
また、その象徴とも言える、Philip WebbがWilliam Morrisのために設計した
『Red House』は、彼らの生活ニーズに合わせて空間が意図的に左右非対称で構成され、
それに伴ってファザードの形も非対称のものとなってます。
当時主流であった新古典主義の様式においては、空間を均等に四角く区分けして
ファザードを左右対称にするのが当然であり、この『Red House』の設計思想は前代未聞の
ものだったようです。
このArts and Crafts Movementから、現代デザインの本格的な幕開けが始まったといえます。
■ TAKESHI KITAGAWA