槙耶のピアノリサイタルから10日経ちました
あれから激動で 既に1ヶ月以上過ぎてしまった感満載ですが
米丸 陽 様から大変光栄なご講評をいただきましたので
掲載させていただきます
▪️Concert report 2018.05.20
本日は「川崎 槙耶 ピアノリサイタル」に行ってきました。川崎さんはただ単純にプログラムの曲目を一つ一つ演奏し披露するに留まらず、斬新なプログラム構成や創意工夫に富んだ演出などにより、コンサート全体を脳内で俯瞰的に見据え想像し、これをひとつの芸術作品として捉えて全曲目の一音一音を一度解体し完全なるひとつの音楽へと再構築し、独自の思想に基づく新たな世界観を創造するかのようなイノベーティブな創作手法により新しい驚きと感動を与えてくれました。しかし今日のリサイタルではそれを遥かに大きく上回る衝撃を受けました。
一曲目のプーランク/ ナゼルの夜会の冒頭を力強く弾き終えた後、MCで「告白します。私は20世紀が大好きです」と語り始めました。来た来た〜と思いつつ何事かと少々唖然としましたが、川崎さんらしい斬新な角度でコンサートのconceptについて知的で朗々とした説明がなされました。
20世紀はある意味で破壊と創造が共存した時代にあり、欲望と絶望、新生と荒廃、情熱と狂気、希望と恐怖が様々に変容し渦巻く人間臭さに満ちた時代。様々な分野において「人間」の表裏がぶつかり合い飲み込み合うことで生まれる泥臭くもセンシティブで結果前衛的な多くの「もの」が生み出された時代であったと思います。
音楽については恥ずかしながらこの時代に疎いもので、川崎さんの生の演奏を聴かせて頂き初めてその魅力を理解したこともあり、なかなか上手く言葉にできないことが多くありますが、この曲もまたこの時代の只中で生み出された作品ということで、『ナゼルの夜会』は当時ひとつの芸術の形態として提唱された思想活動であるシュルレアリスムに着想を得た曲ということからこれをコンセプトの軸として、あえてプーランクの曲を通しで演奏せず、なんと異なる時代の異なる作曲家による異なる作風の曲の合間合間に挟み込み、川崎さん曰くこれを「オブジェ」の様に目に見えない音の美術館の各ギャラリーをつなぐコリドーに添え置いていくかのようにして進行していくという、非常にクリエイティブで斬新な手法がとられました。僕が生業とする建築にも通じるのでとても興味深く、ものの考え方や想いに大きな刺激を頂きました。
この考え方が冒頭の告白と思想につながり、川崎さんの作りたかった壮大な世界が具現化され、僕もこの日この時この場所でしか味わえない特別な空間を享受することができました。正に衝撃、迫力ある圧巻の演奏、そして瑞々しく生き生きとした芸術との出会い。。。現代曲なのに(偏見?笑)情感あふれるドラマチックな展開に終始背筋がゾクゾクとしておりました。この感覚は実際に生で聴いてみないとなかなか伝わらないものだと思います。
また、現代曲ばかり続くと面白くないと思って単純にハイドンを入れてみました、と言っていましたが、これがまた全体をひとつの芸術作品として捉えた時に、逆にシュールに浮かび上がり多大な効果を発していたと思います。また、「テリトリー」というラジカセを使った自作のミュージックコンクレートを発表するなどの試みも趣深かったです。
全体の話ばかりしてきましたが、どの演奏もひとつひとつが力強く精彩で完成度が高く、心を全て持っていかれる思いでした。特に最後の「ラ・ヴァルス」はと〜っても大好きな曲!メチャクチャ格好良かった、最高の演奏でした。
川崎槙耶さんは先のリアルな世界を見据え、今しかできないことを十分に理解した上で自分自身の「時」を「音」で存分に楽しんでいる、そんな感じのとても粋なピアニスト。そして向かうところは単なるピアニストに留まらず、ピアノをツールとした表現者であり素晴らしい芸術家であると自信を持って言える、そんな存在であると感じました。