Photograph Irony-hatukoi


私の名前はピンク。

真っ黒なのにピンクって、笑っちゃうでしょ。

でも私はこの名前が気に入ってるの。

だって、私の好きな人がつけてくれたんだもの。



私の好きな人は、私のお世話をしてくれる「まさゆきくん」っていう人なの。

皆からは「まさくん」って呼ばれてるわ。

まさくんは、私が生まれたときからずーっと傍に居てくれたの。

今も毎日、朝と学校から帰った時のの2回、私に逢いに来てくれるわ。

私はそれが待ちきれなくて、いつもこうして背を伸ばして今か今かと待っているの。

まさくんは、いつも私を抱き上げて、ぎゅっと抱いて、愛おしそうに私の背中を撫でてくれるのよ。

私にとってはそのひとときが、一番幸せを感じる瞬間なの。



ある日、まさくんが女の子を連れてきたことがあったわ。

まさくんの学校の同級生なんですって。

その子は「えみちゃん」っていうらしいんだけど、名前なんて興味ないわ。

頭にきたのは、その子、まさくんの腕に自分の腕を絡めているのよ!

まさくんの腕は私の居場所なのに、べたべた触らないでよ。

しかもやたら香水臭いし。まさくんに匂いうつっちゃうでしょ。

理解できないのは、まさくんの顔も、ちょっと赤くなっているの。

まさくんだって、嫌なら振りほどいたらいいのに。っていうか振りほどいてよ。


えみちゃんは私を見て「何これちょーカワイイー!!」っていったの。

私に向かって「これ」ってどういうこと?

なにこの子、あまりにも失礼すぎるわ。

こんな子と友達付き合いしているなんて、まさくんの趣味を疑っちゃう。

えみちゃんは私を抱っこしようと手を出してきたわ。

だから私はえみちゃんの手に噛み付いてやったわ。

ふん、いい気味よ。

ねぇまさくん、そんな女の心配なんかしなくていいのよ。

「ごめんね」なんて言わなくていいのよ。

「いつもはこんなことしないんだけど…」なんて、当然でしょ。

まさくんに噛み付くわけないじゃない。

そんな女に構ってないで、早く私に触ってよ。

いつものように私を撫でてよ。

でもまさくんはその日、私を抱き上げてはくれなかったわ。


ちょっとやり過ぎたわ。反省してる。



次の日、まさくんはいつもの通り、私に逢いに来てくれたわ。

あぁよかった!!

でもその次の言葉に、私は目の前が真っ暗になったわ。

「ピンク、俺、4月から家を離れるんだ。えみちゃんと二人で、東京の大学に行くことになったんだよ。」

…え?

……どういうこと?

私ははじめ、まさくんが何を言っているのかわからなかった。

いつものように前足を立てて、きょとん、としてたと思うわ。

「ピンクとは暫くの間、お別れだな。」

って言われて、ようやく状況を理解したわ。

でもまさくん、なんで私を連れてってくれないの?

なんでえみちゃんは良くて、私はダメなの?

ねぇ、どうして!!?



あぁ、神様、私は貴方を恨みます。

うさぎと人間が恋愛しちゃいけないなんて、なんて非情なことをお決めになるの?

まさくんには家族や友達、えみちゃん、たくさんの人が居るかもしれない。

でも私にはまさくんしかなかった。

まさくんしか……なかったのよ。



そして4月、まさくんは行ってしまったわ。

最後までまさくんはカッコよかったのよ。

「じゃあな、ピンク、寂しいだろうけど、夏休みにはまた帰ってくるからさ。」

って言って、私の鼻に、小さくキスをしたの。


えぇ、私待ってるわ。

待ってるからね。



Photograph Irony-morinonaka

ねぇ、知ってる?
この森を抜けると、「うみ」っていうものがあるんだって。
「うみ」っていうのは、どこまでもどこまでも続く青い水のうねりなんだって。
ねぇ、想像できる?
ぼくはこの森を抜けたことがないから、全く想像できないや。
一度でいいから見てみたいなぁ、「うみ」。


でもね。
ぼくが予想するに、見上げたときに見えるこの水色の固まりが、「うみ」なんじゃないのかなぁ。
ぼくがそう言うと、ママは笑いながら、
「あれは空っていうのよ。海だったらとたんに水が落ちてきて大変ですよ。」
って言うんだ。
でも「そら」だって時々水を流すよ。
雨になってたくさん流すよ。
そしてぼくたちを優しく濡らしてくれるよ。
ぼくたちはそれで元気になれるんだ。


だからやっぱり「そら」は「うみ」なんじゃないのかなぁ。


今はまだ見えないものがたくさんあるんだ。
それはぼくの背が低いから。
ぼくはこの森の外が見たいんだ。
だからぼくはお日様をいっぱい食べて、大きくなるんだ。
そしていつかママにこう言うんだ。

『やっぱり「うみ」は「そら」だったよ。』

ってね。
Photograph Irony-kamome


蒸し暑い夏の午後だった。
彼は琥珀色の瞳に、力強い憂いを湛えて飛び立った。
向かう先は、何処だろうか。
果てしなく眩しく光る太陽の下だろうか。
遥かなる水平線の彼方だろうか。
誰も知る由もない。


彼がこちらをチラリと窺った。
何かもの言いたげである。
彼は私達の船と同じスピードで走っている。
早く目的地へ行ったらいい。
私達に構っている暇などないはずだ。
そう、真っ直ぐに前だけを見つめていればいい。


彼が再びこちらをチラリと窺った。
私達の一体何がそんなに気にかかるというのか。
思案の先に、ひとつの結論へと辿り着いた。
彼の目線の先、それは、私達の手元にあった。


かっぱえびせん。


私は苦笑しながら、彼を目掛けて1本投げた。
彼はその自慢の丈夫な嘴で、それをひょいっと摘まむと、再び大空へ向かって飛び上がって行った。
そして蒼の彼方へ吸い込まれ、見えなくなった。