銀行員として勤め上げた国政と、つまみ簪の職人として今なお現役の源二郎。
ふたつの河川を結ぶ運河が張りめぐらされた三角州の町で生まれ育った幼馴染だ。
70歳になったとたん、妻が家を出て娘家族と同居を始めてしまった国政は、
弟子の徹平やその恋人マミに囲まれている源二郎をうらやましく思っている。
しかしながら、なんだかんだでかなりの頻度でいっしょに食卓を囲む彼らは
周りから見ればもう家族と言ってもいいくらいの関係だ。
運河を小船で行き来する源二郎。
源二郎の作りだすつまみ簪の繊細さ、美しさ。
幼馴染ならではの歯に衣着せぬ物言いが心地よく
プライドが高い国政の、まじめで不器用が故の言動がおもしろい。
三浦しをんさんらしい小説だなと思った。
死後の世界は運河の果てにある。
水路に面した家に設えられた小さな船着き場に
死者の魂を乗せる小船が、いつの日かそっと船べりを寄せる。
それまで、国政たちは変わらない暮らしを営んでいくのだろう。
さびしさとおだやかさと静かな幸せを感じながら。