魔女と黒猫

西の都からきた魔女は北の港町で黒猫に会いました。
魔女と黒猫の組み合わせなんて、ありふれている関係。
でも本当は違うんです・・・本当は・・・

いつのひか二人は本当にありふれた関係になれるのでしょうか。

魔女は彼女・黒猫は彼。
つながりそうでつながらない二人のお話。

Amebaでブログを始めよう!

灯台の三つ子魔女

魔女は修行中の住まいとして、郊外に家を借りた。
がらんとして埃っぽい空間は、つい数日まで白い猫と暮らした空気とはまったく違っていた。
こんなに早くから過去を思い出してばかりではこの先どうなることか と

魔女は自分に少々あきれつつ、必要なものを帳面に書きとめ

部屋の掃除をし、あらたな自分の空間を作る準備をはじめた。

あわただしい到着と、準備でほとほと体も疲れかけたころ
彼女は夕食をとりに町へおりた。
食欲はあまりなかったが、まずは腹に何か入れないことには働けやしないだろう。
一人でも入れそうな食堂を探し、町をあるく。
日もとっぷり暮れ、商店の明かりは消え、かわりに酒場や食堂の明かりがともり始め
湿った石畳のにおいと、店から香る油や香辛料の香りがはなをくすぐった。

曲がり角を一つ一つ、帰りに迷わないように覚えて歩く。

靴屋の赤い看板・・・右に曲がって 金物屋・・・あぁ、鍋や薬缶はここで揃いそう。
明日はここにはいってみるか。

そんな風に町をあるくうち、一軒の食堂が目の前に現れた。
店の入り口にあるメニューには
『本日のスープ:玉葱とカラス肉のスープ+豆パン』
と書かれてあり
店内を覗きみると、年老いた魔女が3人奥のほうで談話している。

歩きすぎて肩も冷えてきたので、彼女はその店に入ることにした。

初めての店ではあるが、なんとも居心地のよい感覚があったのは
店内に充満する『カラス肉のスープ』の香りのせいだろうか。

白猫が元気なとき、彼はよくカラスを狩ってきたものだ
口元にカラスの羽と血をつけていそいそと玄関をくぐり調理台に無造作に置き

調理をせがむのだ。
スープの煮えるあいだ、彼女は彼の口元を拭き勇ましくも戦ったからだを撫でてやっていた。
思えば彼は空腹のためにカラスと戦ったのではなく
その時間を得るために戦ってきたのかもしれないと、彼女は不意にそう思い出してきた。

程なくスープは出てきた。
目前に置かれたスープが放つ濃厚な香りで、自分が案外空腹だったことに気がつく。
小さく感謝の祈りを唱え 今日はじめての食事を口にした。
食道から胃へ暖かなスープが流れる。豆パンが奥歯で心地よくはじけて彼女の空腹を癒しにかかっていた。

「西から来たのか?あんた」

話のねたも尽きたのだろうか、おくの老婆の一人が彼女に声をかけてきた。
この町について初めてかけられた言葉だった。

「いまどき食膳の祈りをする子なんて珍しいね」
「西の祈り方だよ」
「礼儀正しい。親御さんのしつけがよかったのだろう」

「あ・・はい」「ありがとうございます」

彼女の返事も待たずして、老婆たちはニコニコと話しだす。
口元についたパンくずを払いながらよくよく老婆たちをみると、3人まったく同じ顔であった。

いつこの町にきたのか、今頃西の都はどんな治安だ、何の魔法が得意なのか早くお食べスープがさめるよ、
老婆たちは矢継ぎ早に彼女へ話しかける
3つ子のうち誰がどの質問をしてきたのか、わからなくなるくらいに話した中で

一人の魔女がこういった。
仕事を探しているなら、一番大きな銀行の角を曲がったタバコ屋の親父にきくといい

少々助平だが魔女の仕事口はよくしっているよ。

話し相手をしたおかげで店の勘定と、老婆が焼いたという菓子をもらった。
彼女は、思いがけずうけた暖かさと感謝を胸に家路についた。

ベットはおろか家具さえない部屋でつかれきった体を横たえる。
冬物ぶ厚いのローブを何枚も蓑虫のように着被り明日からのことを考えたが

体は正直なもので、彼女はあっという間に眠りに落ちた。






指先の記憶

魔女が生まれた西の都は大きな町だとはいえないけれど

昼には商人が行きかい夜には明明とランタンがともる、活気のある町だった。
彼女の母もまたその祖母も同じく魔女であった。
ある物語よろしく、彼女が修行として西の都をはなれたのは一年ほど前のことだ。

数枚の真っ黒なローブとマンドラゴラを1匹。
故郷を離れるさいに友からもらった犬のお守りだけをかばんに詰めて
一人、北の港に降り立った。

この国で一番雄大と言われる山が、うっすらと雪をかぶっているさまをみて
早くも故郷においてきた・・・いや捨ててきた 猫のことを思い出した。
7年という長い月日を彼女は白い猫とすごしてきた。
あの雪と同じく白く、雄大ではないがやさしい猫であった。
胸を病んでおりよく臥せっていたため彼女は猫の看病に明け暮れることが多かったが
彼女が離れるころには幾分ほかの猫と同じようにすごすことができるようになるまで回復していた。
それもあり修行を決めたと言っても過言ではなかった。

「私は居なくなります。
 新しく身を寄せる魔女を探しなさい。あなたにはもうそれができるはず。元気で・・・」
そういって最後にほほを撫でた暖かさが まだ指に残っていた。
そしてもう手の届かない、声の届かない距離まで離れたのだと改めて実感した。