私は最近、訪問歯科を利用している。

訪問歯科とは、病気や障害などによって歯科医院へ通うことが難しい人のために、歯科医師や歯科衛生士が自宅などを訪問して、診察や治療、口腔ケアをしてくれるもの。

もちろん、昔から歯が大切なのは分かっていた。

動けていた頃は定期的に歯医者にも通っていた。

それでもALS(筋萎縮性側索硬化症)が進行していく中で、歯のことは少しずつ後回しになっていった。

きっかけの一つは、車椅子を使うようになったことだった。

それまで通っていた歯科医院は、入り口や院内があまり広くなく、車椅子では移動しづらかった。

『行くのが大変だな』

と思うようになり、いつの間にか通わなくなってしまった。

そして一度行かなくなると、次第に歯のことを考える機会そのものが減っていった。

ALSが進行していると、それどころではないことが次々と起こる。

手足が動きにくくなる。
呼吸のことを考える。
食事やコミュニケーションの方法が変わる。

私自身も入退院を繰り返し、やがて気管切開をして、24時間人工呼吸器を使う生活になった。

そうなると、

「歯医者に行かなきゃ」なんて、どうしても優先順位が下がってしまう。

生活が少し落ち着いてきた頃、私が信頼しているヘルパーから言われた。

「口もほとんど開かなくなっているし、きちんと歯磨きできていないと思うから、訪問歯科に来てもらったら?」

言われてみれば、その通りだった。

ALSが進行すると、口や顎、舌などを動かすことも難しくなる場合がある。

私も口を開けることが難しくなっていて、普段の歯磨きだけでは十分に磨けていない部分があった。

そこで、訪問歯科を利用することにした。

訪問歯科を利用し始めて間もなくのこと。

以前治療した歯の被せ物が取れてしまった。

もし訪問歯科を利用していなかったら、

『この状態でどうやって歯医者へ行けばいいんだろう』

というところから考えなければならなかったと思う。

でも、すでに訪問してもらっていたので、そのまま治療につなげることができた。

自宅でレントゲン撮影もしてもらい、心配していた虫歯も進行していないことが分かった。

これは本当に安心した。

さらに私の場合、幸運だったことがある。

訪問してくれているのが、以前から通っていた歯科医院だったこと。

昔治療した時のカルテが残っているので、

どの歯を治療したのか
以前どんな処置をしたのか
どのような経過だったのか

といった情報を歯科医院側が把握している。

そのため、話がとてもスムーズだった。

ここで私は、

動けるうちの歯科医院選びは、将来のことまで考えておいた方がいい

と感じた。

ALSのような進行性の病気では、今できていることが、数年後も同じようにできるとは限らない。

だから、もしまだ自分で歯科医院へ通える状態なら、

『将来、通えなくなった時に訪問してもらえるか』

という視点も加えて歯科医院を探しておくことをおすすめする。

例えば、

車椅子でも通いやすいか
訪問歯科に対応しているか
通院できなくなった後も継続して診てもらえるか

などを、元気なうちに確認しておく。

当時の私は、そこまで考えて歯医者を選んでいたわけではない。

結果的に以前の歯科医院が訪問にも対応していたので、本当に助かった。

ALSになると、どうしてもALSそのものへの対応が中心になる。

呼吸、食事、痰の吸引、人工呼吸器、コミュニケーション…。

もっと緊急性が高く見えることがたくさんある。

でも、身体が動かなくなったからといって、歯の問題までなくなるわけではない。

むしろ自分で十分な歯磨きができなくなったり、口を開けにくくなったりすれば、それまで以上に専門家に診てもらう意味が出てくると思う。

私自身、もっと早く考えておけば良かったと思うことの一つ。

だから、ALSの当事者やご家族で、まだ歯科医院へ通える状態の人には伝えたい。

今の歯を診てもらうだけではなく、『自分で通えなくなった後』まで考えて歯医者を探してみて。

今すぐ必要ではない準備ほど、必要になった時には自分ではできなくなっていることがある。

訪問歯科も、その一つだと思う。

 

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