<第1幕>
冒頭の戦場のシーンで、ビクターは負傷した敵兵の治療を行ったかどで銃殺されそうになっていた軍医のアンリを助けます。
アンリは生きることに対してあまり執着がなく、中尉の「言い残すことはあるか?」という問いに対し即行「ない。殺せばいい」と答えます。
ビクターは執事のルンゲを伴い、軍の指揮の元、戦士した死体を蘇らせる兵士再生の研究を行っていました。
アンリは医師として身体接合術に長けており、そのことを知っていたビクターはアンリに自身の研究を手伝わせようとしました。
ビクターの研究は神への冒涜だと非難するアンリでしたが、人が死ぬ恐怖から解放され皆が安らかに幸せに暮らせる平和な世界を実現したいというビクターの情熱に心打たれ、研究を手伝うことを決意します。
2人は固い友情で結ばれます。
ビクターは戦死した死体を利用して夜な夜な死んだ人間を復活させる研究に明け暮れています。
ビクターのこうした行為は幼い頃の母親の死がきっかけとなっていました。
ビクターと姉のエレンが幼い頃、母親が病に侵され医師であった父親の力も及ばず死亡。
ビクターは母を生き返らせようとその死体を持ち帰り蘇生させようとします。
すでに幼い頃から思考や感覚がズレているのが、この母の死体を掘り起こす行動にも表れています。
母親の死を機に狂ってしまったと噂する村人達に家を焼かれ、幼いビクターを助けようとした父親は焼き殺されてしまいます。
ビクターは医師であった亡き父の城にこもり研究を続けますが、戦争が終結すると研究に必要な戦死した死体が手に入らなくなり研究が行き詰ってきます。
新鮮な死体でなければ・・・
古い死体では蘇生実験の時に焦げてしまうという失敗を繰り返します。
焦りをみせるビクター・・・
そんな矢先、研究に絡んだ殺人事件に巻き込まれてしまいます。
一緒にいたアンリは自ら進んでビクターの身代りとなり逮捕されます。
姉のエレンは、ビクターが幼い頃からずっと、ビクターの研究を完全に理解しているわけではないが姉として支えていました。
しかし、アンリがビクターの身代りになろうとしていることを知ったエレンは、ビクターを説得します。
ビクターには裁判官に顔のきく叔父のステファン市長がついているので死刑はまぬがれるだろうからと姉に諭されます。
ビクターはアンリのもとへ説得に行きますが、ビクターの研究が成功することを願うアンリはいたって冷静で決心が固く、「人類の未来のために生き残るべきは僕より君の方だ。」と言って全く譲りません。
アンリがソロで歌う歌詞の中に、アンリがビクターに夢を託しているのが痛いほどわかる一節があります。
一緒に夢見るなら
死んでも後悔しない
すべてを捨てても君の
夢の中で生きられるなら
戦場でビクターに救われていなければすでに終わっていた人生だからと、ビクターの身代りになることを決意したアンリにブレはひとつもありませんでした。
もしかしたらアンリは自分の脳をさしだすことも想定していたのかもしれません。
アンリの裁判の日、ビクターは裁判官にアンリの無実を訴えるもアンリは微動だにしません。
裁判官は叔父の「ビクターは精神を患っていて正常な判断ができない状態なんです。」という発言を受け入れ、アンリの死刑を決行。
アンリはギロチンにかけられ命を落としてしまいます。
アンリを引き留める場面で、ビクターのダブルキャストである中川くんと柿澤くんの演技の違いが興味深かったです。
実験用の新鮮な脳を欲しがっていたビクターは、アンリが自分の身代りになって処刑されることを申し出た時、中川ビクターは純粋に100%止めたい!!という気持ちが伝わってきましたが、柿澤ビクターからは止めたい気持ちの中に数%は科学者として研究に利用したいという心情が伝わってきました。
ご本人達の解釈はどうかわかりませんが、そういうふうに伝わってきたのです。
柿澤ビクターの場合、表層的な部分だけでなく心の奥に潜む心情までがじわじわと伝わってきました。
ビクターはアンリの首を研究室に持ち帰り、アンリを生き返らせようとします。
ビクターを幼いころから見守ってきた姉のエレンが「いったい脳の中はどうなってるの!!」と嘆く姿がありましたが、まさにそう思わせるような天才科学者の危さを感じさせられました。
いよいよ私が観劇前に何度も何度もみた韓国版の動画の場面にきました。
ビクターの狂気が垣間見えるナンバーです。
「偉大なる生命創造の歴史が始まる」
生命創造の歴史が今
始まるのだ 俺の強い意志で
叛くべきモノは神の摂理
領域さえ侵そう
さあ呼ぶがいい
俺を創造主と
恐怖は胸深く 沈めて
探り当てる 神の秘密
閃光よ この俺に力を
天地生み落した
瞬間のように
雷鳴よ 鳴り響け
・・・・・略・・・・・・
地獄を抜け出てきた
愛しき魂 聞け
お前に命令する
今すぐ 蘇るのだ
ついに成功したのか?
立ちあがったアンリ(怪物)を見て心底嬉しそうに笑いだす常軌を逸した柿澤ビクター。
アンリが生き返った喜びよりも、まるで生命創造という研究が成功したことへの喜びが勝っているように見えます。
中川くんの場合、『DNA SHARAKU』 で在人という悪役を演じた時の狂い方が異様で冷徹で不気味すぎる姿が脳裏に焼きついていたので、今回はどれだけ狂気なビクターを演じてくれるのか期待しましたが意外と血の通ったビクターになっていました。
でも中川くんの圧巻の歌は流石でした。
中川くんは圧倒的な歌唱力で気持ちを表現するのに対し、柿澤くんは演技、表情で気持ちをバンバン伝えてきます。
よろけながら立ち上がったアンリ(怪物)
しかし、誕生したのは、アンリの記憶を失った怪物だった・・・
怪物を生みだしてしまったことを悟ったビクターは怪物を殺そうとしますが、怪物はルンゲを惨殺し逃亡します。
ここで1幕終了
<第2幕>
3年後、ビクターと幼馴染のジュリアは結婚します。
幸せな時を過ごす2人のもとへ、ステファンが行方不明になったという不穏な知らせが入ります。
散歩に行ったきり帰ってこない、飼い犬が食いちぎられているという物騒な知らせ。
そして、ビクターの目の前にあの怪物が姿を現します。
「ビクター・フランケンシュタイン。俺の創造主よ」
怪物は、ビクターのことを創造主と呼びますが怪物には名前がありません。
怪物は、ビクターの銃から逃げ切った後どのようにして3年間を過ごしてきたかを地獄のような体験を語り始めます。
ここから回想シーンに入ります。
1幕のプリンシパルキャストが全員別のキャラにガラリと変わるシーンです。
それは、闇の闘技場の主人ジャック(=1幕のビクター)、女主人エヴァ(=エレン)、下女のカトリーヌ(=ジュリア)、ジャックの手下イゴール(=ルンゲ)、闘技場の乗っ取りを企む金貸しフェルナンド(=ステファン)らが繰り広げる、おぞましい人間達の姿・・・・。
ビクターらの追跡からなんとか逃げ延びた怪物は飢えて森を彷徨い、ついに食べ物がつき村里に下りていきました。
そこで闘技場の女主人エヴァに金の成る木として拾われ、闘技場で死ぬまで戦い観客を喜ばせる見世物にされます。
「お前は人間なんかじゃない、怪物なんだ!」と暴言を吐く闘技場の主人ジャック。
ジャック役の柿澤くんの迫真の演技が不気味すぎでした。
一見ユーモラスで、コミカルにはしゃいでみたかと思えば、次の瞬間、怪物に対して物以下の殴る蹴るの暴行を加えた揚句、焼き鏝を押し付ける血も涙もない拷問で、いっちゃってる感じが強く出ていました。
「レオン」のゲイリー・オールドマンの狂気の悪役ぶりを彷彿とさせられました。
ジャックが去った後、こっそりと怪物のもとを訪れる下女のカトリーヌ。
彼女は闇の闘技場では奴隷のような扱いを受けています。
カトリーヌは、クマに襲われそうになったところを怪物に偶然助けられた経緯もあって、コミュニケーションを図ってきます。
カトリーヌの「こ・ん・に・ち・は」に対して「こ・ん・に・ち・は」と返す怪物。
カトリーヌとのやりとりを通して徐々に言葉が話せるようになります。
怪物の好物はクマ。
怪物のたどたどしい「クマ・・・オイシイ」のセリフは名言となっているそうで、グッズ売り場にレトルトの缶入りクマカレーが販売されていたわけがここでわかりましたww
終始暗い雰囲気の舞台で、この「クマオイシイ」のところだけほのぼのとなります。
カトリーヌは、自分は昔から人間に虐げられて生きてきたから誰もいない北極にいつか行ってみたいと怪物に語ります。
そして怪物も一緒に行きたい気持ちになります。
後にこの北極がキーワードになってきます。
ただ、このほのぼのとした空気は一瞬で終わります。
ジャックとエヴァが入ってきて、カトリーヌを虐げます。
カトリーヌを庇おうと「やめろー!」と叫ぶ怪物。
怪物は自分に優しくしてくれる人を純粋に信じるピュアな心の持ち主なのがわかります。
しかしカトリーヌは地獄のような生い立ちと壮絶な人生を生きてきており、今の奴隷のような生活から飛び出して自由に生きていきたいという渇望が強く、そのためなら裏切り行為だって躊躇わずやります。
カトリーヌは闇の闘技場を乗っ取ろうとするステファンから「怪物が毎日飲む水にこの薬を混ぜれば自由の身にしてやる」と取引を持ちかけられます。
それは怪物の力を弱める薬物で闘技場での戦いを不利にさせようとしたのです。
カトリーヌのことを信じきっている怪物は、カトリーヌから渡された水を何の疑いもなく嬉しそうに飲みます。
こういう部分もいい意味で人間ぽくなくて、ピュアな動物的な感じな怪物です。
1幕ではお嬢様ジュリア役だった人が2幕でドロドロの下女カトリーヌ役をやるという、こちらも振り幅がすごいです。
音月さんは宝塚時代に一度拝見したことがありますが歌唱力抜群だったのを覚えています。
音月さんの伸びのある声量たっぷりの歌声は、カトリーヌの力強く激しいソロナンバーにぴったりだと思いました。
闘技場での戦闘シーンで、ジュリアが盛った薬のせいで全く力の出ない怪物。
ステファンが用意した対戦相手のチューバヤにボコボコにされてしまいます。
試合終了後、ステファンが薬を使ったことがエヴァとジャックにバレてしまい、ステファンはエヴァに刺殺されてしまいます。
そして、怪物は戦えない役立たずの壊れたおもちゃとして捨てられるように放置されてしまいます。
見世物として虐げられた怪物の怒り・悲しみ・憎しみ・孤独・・・・・
怪物は人間でも動物でもない異型のバケモノである自分を産み落とした創造主であるビクターに復讐を誓います。
怪物の回想シーンが終わり舞台は再び1幕のメンバーに戻ります。
そしていきなり、ビクターの姉エレンが村人たちからステファン殺人の容疑をかけられ、村人たちに捉えられているというシーンになります。
エレンを絞首刑にしようとする村人たちをビクターが必死に叫んでとめようとしますが、恩人の叔父を財産目当てで殺したと思い込んだ村人は聞く耳もたず、あっさり絞首刑にしてしまいます。
ステファンを殺したのはエレンだと村人たちに思い込ませるように仕組んだのは、ビクターへの復讐を誓う怪物の仕業でした。
絞首刑にされてしまったエレンの死体をすぐに実験室に運ぶビクター。
「姉さん。僕が生き返らせてあげるからね・・・」とビクターはこうなってもまだ目が覚めず同じ過ちを犯そうとしていました。
しかし、実験室の蘇生の装置は怪物によって全部めちゃくちゃに壊されていました。
呆然とするビクターの前に怪物が現れました。
「俺はこの部屋で生まれた。」
「悲しい命をまた作ろうとするのか」とエレンの頭を掴んでビクターの方へと向けます。
「どうしてこんな事を・・・アンリ・・・」とビクターが絶望に打ちひしがれながら言うと・・・
「その名で呼ぶな!」と吐き捨てるように言う怪物。
怪物はビクターの実験記録を盗み見ることによって自分が誰にどうやって創られたのかを知っていました。
そして自分の野望のためには親友だって実験に使うビクターを軽蔑していました。
「俺を殺してくれ!」と言うビクターに「まだだ」と言わんばかりに嘲笑し、「月が割れたら、再び痛みの続きをくれてやる!」と窓から出て行きます。
ルンゲ、ステファン、エレン、と大切な人を怪物の復讐によって奪われ続けるビクター。
怪物が言っていた月が割れる夜。
村人や警備兵と共に怪物を探そうとするビクターでしたが最後はジュリアの命まで・・・・。
ジュリアを掻き抱きながら泣いているビクターのもとに怪物が現れます。
「なぜ僕じゃなくジュリアを・・・この怪物め!」とビクター。
怪物は「だったらお前たちは何なんだ?俺から見たらお前たち人間の方が怪物だ。」
「俺は北極へ行く。殺したければ来い。待っている。」と、ビクターに言い残し去っていきます。
怪物とカトリーヌが語った夢の楽園だったはずの北極・・・・
最後にそこに向かおうとする怪物が切ないですね。
「みんな死んだ・・・僕のせいだ。」と、ここでやっと自分の犯した罪を後悔しだすビクター。
森の場面に変わります。
怪物が哀愁漂わせながら一人静かに佇んでいます。
そこへ泣いてる少年が来ます。
怪物の「なぜ泣いている?」の問いに「道に迷ってしまった」と答える少年。
「話をしてあげよう・・・俺の友達の・・・おいで」と少年に手を差し出す怪物。
「一人の男がいた・・・」と神になろうとした創造主ビクターについて語る怪物。
ふいに少年が「お兄ちゃんも誰かに作られたの?」と聞きます。
「どうしてそう思う?」
「・・・首の傷」
「大人になればお前もあいつらと同じような目で俺を見るのだろう・・・」と怪物は少年の首に手をかけます。
まさかこの少年まで・・・と一瞬ドキッとしますが、怪物は最後まで力を込める事はなく手を離します。
「話はこれでおしまい・・・」
首を絞められた恐怖で少年は逃げていきます。
少年が去った後、「一人の怪物がいた、嘘だと知っていたけど、幸せがあるという地の果てに行った・・・」と今度は自身のことを歌い出します。
物語の最後の舞台、北極。
怪物のもとにヨロヨロになりながらビクターがやって来ます。
怪物を見るやいなや殺そうと襲いかかるビクター。
しかし、クマを素手で倒したり闘技場で闘ってきた怪物相手ににビクターが敵うわけがありません。
しかし組み合った時に怪物の背中をナイフで斬りつけるビクターでしたが、逆にナイフで足を刺されてしまいます。
そして銃を突き付けられたビクターは観念したかのようになりますが、銃をビクターに渡して「殺せ」と言わんばかりに両手を広げる怪物。
しかしなかなか撃てないビクター。
そんなビクターに落ちていたナイフで襲いかかろうとする怪物。
反射的に引き金を引いてしまうビクター。
怪物が撃たせようと思ってわざとやったのは容易にわかります。
撃たれ倒れた怪物は笑い声を上げます。
「その体ではもう動けまい・・・
お前は一人になるんだ・・・
ビクター・・・これが俺の復讐だ・・・」
と言い放ち息を引き取る怪物。
それまでビクターのことを創造主といっていた怪物が初めてビクターと言います。
「アンリ!」と叫んで怪物の傍へ行こうとするビクターだが足を刺されていて立ち上がれない。
必死に這いつくばってアンリ=怪物の元へ行くビクター。
息絶えたアンリ=怪物の亡骸を抱え「俺はフランケンシュタイン」を絶唱。
そして幕。
韓国版の迫力ある動画を何回も観ていたので、それに比べると最初は物足りなさを感じていましたが、最後の場面で柿澤ビクターが「アンリ・・・」と言って泣き崩れる場面で科学者としての野望を果たすことに全力をそそぐあまり、人間としての心を失くしていたビクターが初めて心から腹の底から後悔したことが伝わってきて思わずうるっときました。
最後にビクターと言った怪物の中にアンリがどれ程存在していたのか?
最初から最後までアンリの顔をした全く別の生き物だったのか?
最初から怪物の心の中にアンリはずっと存在していたのか?
徐々にアンリの記憶が蘇ってきたのか?
私は少なくとも終盤には密かにアンリが戻っていたのではないかと思います。
最後に2人のアンリ役の感想を・・・
加藤アンリは大人な印象。
人生を達観していてすべて見通せている感じでクールで落ち着いていました。
そして生きる意味を見失いかけている。
狂気と哀愁に満ちた名もなき怪物でした。
怪物にしては美しすぎましたけどww
小西アンリは憂い、悲しみが色濃く出ていて憐れみと同情が加藤くんより何倍も湧きました。
小西アンリの顔や体の歪みの演技がおぞましいほど迫力があって、その怪物化した姿を見れば見るほど、ビクターが神の領域を犯した事の重大さが伝わってきました。
怪物役は小西くんの方が猟奇的で不気味だったし闇の闘技場での拷問がより壮絶にみえました。
舞台を観ながら、いろんな場面で他のミュージカルや映画を彷彿とさせられました。
「オペラ座の怪人」、「ファントム」、「エリザベート」、「シザーハンズ」的要素が随所に見られて秘かに楽しんでおりました。