裏車掌です。
昨年から本(ほぼ新書)を紹介する
ブログになっております。
今は、本の紹介記事は、
日曜日と木曜日の朝7時
更新となります。
他の曜日に
別の内容の記事も出す予定です。
よろしくお願いします。
はじめに:宇宙移住は夢ではなく「現実」になりつつある
「宇宙に住む」という言葉を聞いて、皆さんはどのような印象を持たれるでしょうか。
SF映画の中だけの話、あるいは遠い未来の出来事だと感じる方も多いかもしれません。
しかし、本書『宇宙にヒトは住めるのか』(林公代著、光文社新書)を読むと、その認識は大きく覆されることでしょう。
科学ジャーナリストとして長年宇宙開発の現場を取材してきた著者が、政府プロジェクトの月面農場から宇宙建築、宇宙医学の最新研究まで、特別な許可を得て潜入取材した驚きの成果が詰まっています。
本書は、宇宙移住という壮大なテーマを、具体的なデータと現場の声で描き出した貴重な一冊です。
月で野菜を育てる「月産月消」プロジェクトの全貌
本書の第一章では、月面での食料生産という挑戦的なテーマが取り上げられています。
著者は実際に月面農場の開発現場に潜入し、たわわに実る健康トマトや、種から育った真っ赤なイチゴの様子を目撃しています。
なぜ「月産月消」が必要なのでしょうか。
地球から月への物資輸送には莫大なコストがかかります。
将来的に多くの人が月で長期間暮らすためには、現地で食料を生産する技術が不可欠なのです。
本書では、月面農場で栽培される8種類の作物がどのように選ばれたのか、6分の1の重力環境でも植物は正常に育つのか、さらには糞尿を肥料として再利用するシステムまで、詳細に解説されています。
興味深いのは、月の推しメニューが「タコライス」や「月産生野菜バリバリサラダ」だという点です。
研究チームが最も大切にしたのは「美味しさ」であり、単調になりがちな宇宙生活に彩りを添えるイベント食として「地球見だんご」なども開発されているそうです。
月面住居の驚くべき設計思想
第二章では、月で人が快適に暮らすための住居設計が紹介されています。
月の重力は地球の6分の1であるため、天井の高さを地球の6倍にできる可能性があるといいます。
しかし、高すぎる天井は逆に人を不安にさせるため、適切なバランスが求められるのだそうです。
本書では、2〜4人用のベースキャンプから、数十人が暮らす居住基地「Lunar COSMOS」、さらには100人規模の大建築物まで、段階的な月面建築の構想が図解とともに示されています。
特に印象的なのは、「喧嘩が起きない家の作り方」や、生活音・ニオイの問題への対策、照明の工夫による精神安定効果など、人間の心理面にまで配慮した設計思想です。
日本の建設会社が持つ技術が世界で戦える可能性についても言及されており、宇宙建築が日本の新たな強みになりうることを示唆しています。
宇宙が人体に与える影響と最新の医学研究
第三章は、宇宙医学の最前線を伝える内容となっています。
宇宙に行くと人体はどう変化するのでしょうか。
本書によれば、体液が上半身に移動して顔がむくみ、足が細くなる「タコ型」の体型になるそうです。
また、無重力環境では地上の10倍の速さで老化が進むという衝撃的なデータも紹介されています。
特に注目すべきは、宇宙飛行士のほぼ全員に起こるという「眼の変化」です。眼球が平べったくなったり、視神経がくねくねと曲がったりする現象が観察されており、その原因として頭蓋内圧の上昇が疑われています。
本書では、11人の宇宙飛行士に対して行われた医学実験の結果や、大西卓哉宇宙飛行士が実践した対策なども具体的に紹介されています。
さらに、宇宙空間で血栓が発見された事例や、野菜嫌いだった油井宇宙飛行士への食事指導など、現役宇宙飛行士の体験談を交えた解説は非常に臨場感があります。
人工重力施設と火星移住への展望
第四章では、より長期間、より遠くへ人類が進出するための技術として、人工重力居住施設「ルナグラス」が紹介されています。
この構想のきっかけが、著者が取材した研究者が中学生の時に抱いた不安だったというエピソードは、科学の進歩が一人の人間の素朴な疑問から始まることを教えてくれます。
また、火星移住を目指す人々の取り組みや、1990年代に行われた閉鎖生態系実験「バイオスフィア2」から得られた教訓なども取り上げられています。
「たとえ地球がなくなったとしても」人類が存続できる道を探る研究者たちの姿勢には、深い感銘を受けることでしょう。
宇宙で赤ちゃんは生まれるのか、そして開かれる宇宙
最終章である第五章は、宇宙での生殖という究極のテーマに踏み込んでいます。
宇宙メダカの実験から始まり、哺乳類の受精卵が宇宙で育つかどうかを検証した世界初の実験の成功、宇宙で6年間保存した精子からマウスが誕生した研究など、驚きの成果が次々と明かされます。
また、本書は「開かれる宇宙」というテーマも重視しています。
足に人工骨を入れた人や、障害のある「パラアストロノート」が宇宙を目指す時代が来ていること、日本で無重力飛行を体験したパラスイマーの話など、宇宙がより多くの人に開かれつつある現状が伝えられています。
「一器多様」という言葉が示すように、宇宙では地上とは異なる能力が拡張される可能性があり、多様な人々が宇宙で活躍する未来像が描かれています。
おわりに:宇宙移住時代に向けた必読書
本書は、宇宙に関心のある方はもちろん、未来の社会のあり方を考えたいすべての方におすすめできる一冊です。
徹底した現場取材に基づく具体的な情報と、「なぜ宇宙に住むのか」という根源的な問いへの考察が、バランスよく織り込まれています。
宇宙移住は、もはや夢物語ではありません。本書を読めば、私たちが生きているうちに月や火星で人が暮らす時代が訪れることを、実感を持って理解できるはずです。


