窓

なぜか、忘れてしまっていることってありませんか?
ほんとは、おぼえていなければいけないはずのことなのに。
これは、そんなお話です。
あれは、真夏の暑い日の午後のことだった。
ひさしぶりに、車に乗り、すこし離れたところにあるホームセンターに買物に行った。
以前はちょくちょく行っていたのだが、最近はまったく行かなくなっていた。
途中トンネルがあるのだが、そこを抜けると、住宅街からいきなり畑や田んぼが広がる景色に変わる。
まるで、瞬間移動をしたかのような気分になる場所だった。
なんとなく、なつかしい気分になっていた。
そんな時、トンネルを抜けてすぐのことだった。
今まで聞こえていなかった車外の音が聞こえてきた。
車内の温度も上がってきた。
エアコンが壊れたのかと思ったがそうではない。
ふと、ミラーを見ると、左側の後部座席の窓が半分くらい開いていた。
さっきまでは確かに閉まっていた。壊れたのだろうか?
パワーウインドというものは、便利なのだが、けっこう壊れる。
運転席の窓などは、すでに2回も修理をしている。(安い車のせいかもしれないが)
とりあえず、スイッチを操作してみると、窓は問題なく閉まった。
うっかりスイッチを操作してしまっていたのだろうか。
それから、しばらくの間、窓が勝手に開くようなことは起こらなかったが、また、窓が勝手に開くことがおこった。
壊れている様子も、操作ミスもない。
同じ場所、あのトンネルを抜けてすぐのところだ。
突然だった。
記憶がよみがえってきた。
あそこは、半年前に死んだ、犬のベルのお気に入りの場所だったのだ。
いつのまにか窓の開け方を覚えていたベルは、トンネルを抜けると、自分で窓を開けて頭を出し、流れる景色をうれしそうに見ていたものだった。
今では車を買いかえてしまったが、あの場所を通るときは必ず、左側の後部座席の窓を開けるようにしている。
