いつもお家に点滴を届けてくれる薬局の薬剤師さんが、インクレミンシロップについてお問い合わせをしてくださったので、その内容を書いておきます。
Q.インクレミンシロップを小腸ろうから注入すると十二指腸を通過しないことになるが、鉄の吸収はどうなるか
やはり、鉄分は十二指腸で最もよく吸収されるとのことで、十二指腸を通過するように注入したほうがいいだろうとのことでした。
娘の場合、やはり胃ろうから(もしくは口から)の摂取がよさそうです。
Q.インクレミンシロップも胃酸と反応したほうが良いのか。
胃酸と反応することでより吸収がよくなるので、やはり口から飲むか、胃ろうから注入するかがマストになるようです。
Q.牛乳が鉄の吸収を阻害するというのを見たことがあるが、牛乳も控えたほうが良いのか。
身体の中で鉄が欠乏している状態だと、それを補おうと鉄の吸収力も上がるそうです。なので、鉄欠乏状態では牛乳の影響は少ないのではないかとのことでした。
いつも幼稚園のお昼時間に牛乳のミニパックを飲んでいるんですが、それがあまり良くないのかな?と思って少し心配していたので、牛乳はあまり影響がないという回答が得られて少し安心しました。
さて。
体内での鉄の吸収について記載されているものを見つけたので、まとめてメモ書きとして残しておきます。
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溶性ピロリン酸第二鉄(インクレミンシロップ)は非ヘム鉄(Non Heme Iron)なので、Fe3+イオンの化合物として存在しているわけですが、
- Fe3+化合物の吸収には、まず強酸(胃酸)によるイオン化と、還元剤(ビタミンCなど)による還元(電子の受け取り)が必要みたいです。
鉄剤とはいえ、そのまま吸収されるわけではないのねぇ。
以下がその流れ。
- 化合物中のFe3+は、胃酸によって溶解度があがり、フリーのFe3+イオンとして溶け出す
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- 溶け出したFe3+は、ビタミンCなどの還元剤によりFe2+に還元される
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- Fe2+イオンは、酸性でなくても溶存できるが、胃内での胃症状(ムカつき、はき気)の原因ともなる
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- フリーのFe2+は、十二指腸へ運ばれると、Ferroxidase II 活性(酵素は同定されていない?)の働きでふたたび酸化され、フリーのFe3+となる
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- フリーのFe3+は、十二指腸のβ3インテグリンを介して吸収される
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- 十二指腸液はアルカリ性であるためフリーのFe3+は、そのままでは水酸化第二鉄として沈殿してしまう
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- 十二指腸で吸収されなかったフリーのFe3+は、十二指腸チトクロームbの作用によりフリーのFe2+へ再び還元される
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- フリーのFe2+は、アルカリ環境下でも溶存できる
- フリーのFe2+は、十二指腸のDMT1トランスポーターを介して吸収される
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- 腸管細胞内に吸収されたフリーのFe3+は、そのまま腸上皮細胞内でフェリチンの殻(アポフェリチン)にとりこまれ、安定不活性なFe3+(第二鉄)として貯蔵される
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- フェリチンの一部は、血清中へ分泌され、血清フェリチンとなるが、そのパスウェイは不明
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- 腸管から上皮細胞内に吸収されたフリーのFe3+は、腸上皮細胞内のFerric reductaseによりに還元され、フリーのFe2+となり血液中に放出される
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- 血清中のフリーFe2+は、血清セルロプラスミン(Hephaestin)が有するFerroxidase I 活性によりFe3+に酸化される(この反応ではフリーラジカルを発生しない)
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- Fe3+は、血清中のトランスフェリンと結合し、血清鉄(Fe3+)となる
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- 十二指腸のDMT1トランスポーターを介して腸管細胞内に吸収されたフリーのFe2+は、腸上皮細胞内のセルロプラスミン(Ferroxidase I 活性)により、安定不活性なFe3+(第二鉄)に酸化されて、フェリチンの殻(アポフェリチン)の中で貯蔵される
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- 酸化されなかったフリーのFe2+は、Ferroportinを通って血清中に放出され、Hephaestinの作用でFe3+へ酸化され、血清中のトランスフェリンと結合し血清鉄(Fe3+)となる
一言で「鉄分を摂取」と言っても、体内ではこんなにも複雑な吸収が行われてるんですねぇ(°_°)