高校生の時、NHKのドラマ「川の流れはバイオリンの音」を観てからずっとイタリアに憧れてきました。

ドラマのなかのバルの様子や田舎の風景にたまらなく心ひかれて、イタリアのことばかり考えて過ごしていました。

大人になったいま、本当にイタリアへ行ってみたいと、あれほど焦がれてきたのに、今日グーグルマップでローマの様子を見てみたら、自分の思っていたイメージとは全く違うことに気づきました。

田舎ではないからかも知れませんが、それ以上になにか納得できないなと思ったとき、ある人の顔が思い浮かびました。

ミッションスクールに通い、洗礼を受けようと勉強中のわたしの教会にその人はやってきました。

イタリア人のザンパーロ神父様です。

その頃の我が家は統合失調症の兄が東京からもどり、荒れに荒れていました。

幻覚や幻聴に苦しみながら暴力をふるいつづける兄、それに対して暴力で押さえ込もうとする父。

ガラス窓がわれ、熱湯が飛び散り、

母は逃げ惑い、

大袈裟でもなんでもなく地獄絵図でした。

そんな家庭に翻弄されるわたしをなんとなく察してか、ザンパーロ神父様はまるで本当の父のように接してくれました。

あるときは司祭館に呼び、お茶とクッキーを用意してくれ、またあるときはすぐ近くのパン屋のカフェに連れていき、ランチを食べさせてくれたのです。

惨めだったわたしに、「可愛い小鳥のようなフランチェスカ(わたしの洗礼名)」と声をかけ、神様がどんなに優しいか身をもって教えてくださったのです。

そんなザンパーロ神父様との時間を思い出したとき、わたしにとってのイタリアは、ローマでもミラノでもない、あの小さな司祭館やパン屋のカフェだったと、心から気づいたのです。

お金を出してももう行けないし、お金を払わなくてもいつでも行ける、わたしの心のなかの故郷でした。

そう思えたとき、わたしのイタリア行きの夢はもう必要ないのではないかと気づいたのです。

「川の流れはバイオリンの音」の話が唯一通じた今の夫と、DVDを見直しながらピザを食べて見るのもいいかも知れません。

こんな感じだったささやかな司祭館

わたしのなかのイタリア