中学校の国語の教科書、後で読んだら名作ぞろい。こんな本を、どなたかのブログから見つけた。多忙な一週間で、短編でよかったけれど、この年になると深く考えてしまう話ばかり。12篇は順不同で少しづつ書くことにした。

以下、ほぼネタバレなので、これから読む方はご注意を。

「少年の思い出」ヘルマン・ヘッセ

蝶の収集に熱中した少年時代の思い出は、友人の美しい蝶に魅せられて盗んでしまったこと。その友人は、隣に住む先生の息子で、非の打ちどころのない模範少年。ポケットにねじ込まれ無残な姿となった蝶を軽蔑する友人の顔が蝶の収集の苦い思い出に。

「ぼくは、一度起きたことはもう償いのできないものだということを悟った」という教訓めいた文章で終わり、なるほど教科書向きと一読目は思いましたが、暗くなってマッチをすったぼくは「たちまち外の景色は闇に沈んでしまい、窓いっぱいに不透明な青い夜色に閉ざされてしまった」当時の外国の夜はこんな色なのかと、異国情緒が感じられ、少年の苦い思い出は、外国文学への興味を喚起され、だから夏休みの課題図書が「車輪の下」だったの？なんてことを思い出し、内容は思い出せないところで、再読の機会を与えられた気分。さすが教科書だと感心したところで次は・・・・

胡桃割り　ある少年（永井龍男）

父親の部屋にあった胡桃を割るナット・クラッカー。病に伏せる母を献身的に看病する父。自分の面倒をみてくれる姉。やがて母は逝き、姉は嫁ぐことになり、家に遠い親戚の女性が来ることに躊躇う少年は・・・・。

この少年は、大人になって絵かきになり、父の命日に胡桃を割りながら、母を一人で看病し、その合間に読書をしながら胡桃を割って食べる父を思い出す。さまざまな場面で胸をつかれるこの物語。何度も読んでしまったのは、慈愛に満ちた父が、こんな父がいる物語を読んでいたいから。少年は母の死を乗り越えるけれど、もちろんまだ父の寂しさを慮るほど大人じゃない。でも、少年を可愛がり世話をしてくれる姉は、父の寂しさを感じる心優しい娘として、嫁ぐ前に父の再婚を密かに望んでるが、少年に強要はしない。少年は胡桃が割れた清々しさに、父の再婚を認めて物語は終わる。

胡桃割りに熱中する父の心の中は、どれほど複雑な思いだったのか、それを思いながら父を偲ぶ息子がいい。そして優しさに満ちあふれている。ヘルマン・ヘッセの「少年の思い出」で模範少年が登場し「胡桃割り」では模範家族の登場だ。教科書は、模範を示すことが大前提なのかと思いきや、次の物語を読むと、自分の心まで苦悩に満ち溢れ葛藤してしまう。そんな苦しみを中学生に与えるのは、何でだろう？そうだ。間違いなく反戦を説いている。

「夏の葬列」山川方夫

戦争末期に疎開していた小さな町を訪ねた彼は、十数年前を思い起こすような葬列に出会う。怖がりな彼を、いつもかばってくれたヒロ子さん。葬式の饅頭を貰いに行く途中の芋畑で機銃掃射に遭い、うずくまる彼を助けに来てくれたヒロ子さん。攻撃目標になると言われる白い服を着たヒロ子さんと逃げるのが怖くて、突き飛ばしてしまった彼は、「強烈な衝撃と轟音が地べたをたたきつけて、ヒロ子さんがゴムマリのようにはずんで空中に浮くのを見た」重症を負ったヒロ子さん。

一体誰が彼を責められるだろう。翌日終戦になり、東京に帰った彼が、十数年の時を経て、その町を訪ねた時の葬列の写真はヒロ子さんだった。ヒロ子さんは生きていた。彼の罪悪感は一瞬軽くなるけれど、写真のヒロ子さんは自殺だと教えられる。ひとり娘が芋畑で機銃掃射で亡くなってから、心を病んでしまったヒロ子さんの母親の葬列とわかり、悲劇が連綿と続いていたことを知ることになる。

誰も彼の心を慰めてあげることは出来ない。苦しくて胸が痛くなる。そして、自分がこの彼の母親だったら、どんな言葉をかけただろう。

こうして中学生の国語の教科書に載った小説を読んでいると、国語は試験より感想文を書かせて保存してくれていたら良かったのにと思った。数十年後に同じ本を読んだ自分の感想と比べてみたい。ちなみに中学国語で私を虜にしたのは「杜子春」でした。もちろん今も手元に、いつでもページを開ける。

来週の更新は、水曜日か木曜日に。

教科書名短篇 少年時代 その1

教科書名短篇　少年時代　その1