本書を手に取ったのは、2021年の文芸時評でとりあげられてたから。まだ文庫になっていなかったので、図書館で検索したら予約1番。何だか嬉しい。図書館から本を借りると必ず親の急変がある気がする。その不安を吹き飛ばす1位。利用を控えていたのに、またまた何冊か予約してしまった。ちなみに「汝、星の如く」は1.614位。たまげた。自分の番が回ってくるのと文庫になるのとでは、どちらが早い?

 

 

表題からは、猫にまつわる話と思うでしょうが、いや、猫にまつわる話です。この物語に登場するスリランカ人が話す民話が「やさしい猫」の物語なのです。やさしい猫は鼠を喰ってしまう。それって優しいのか?ミユキさんの娘のマヤちゃんもそう思っている。

 

前半は、マヤちゃんの母親のミユキさんとスリランカ人のクマラさんの恋愛話。何だか退屈だ。ミユキさんの娘のマヤちゃんもクマラさんに簡単になついてしまう。幼馴染のナオキ君まで輪になって仲良しグループの出来上がり。その後のナオキ君がなかなか興味深く、率直な人間になっていくのが良いので、まあいいけど。

 

二人の恋愛が、娘のマヤちゃんにもすんなり受け入れられて、ミユキさんの母親にも認めてもらって、二人は結婚することになった。

 

ここまでの難関といえば、ミユキさんの母親の反対くらい。しかし次の難関は、出入国管理局である。クマラさんの在留カードが問題になる。

 

ここからは、出入国管理局とミユキさんの家族との攻防が始まる。出入国管理局によって二人は引き裂かれる。

 

ニュースになった出入国管理局の施設で亡くなったスリランカ女性を意識しているのかもしれない。日本に在留するも退去するも、在留カードが切れてしまった場合はどうなるのか?特にアジア系の人たちの困難な状況が語られる。

 

出入国管理局のシステムがなるほどよく分かった。日本は何て面倒な国なんだと怒りさえわいてくる。そして外国人といっても米国人には偏見をもたない日本人。ミユキさんを母親としてクマラさんを父親として家族が暮らすためにする勇気ある戦いを、いつの間にか応援してしまう。自分の恋愛に夢中になっている母親を、娘の目を通して語られることに違和感があったはずなのに。こんな国の制度に真正面から切り込んでいく母娘を描く著者がすごい。そして、母娘が望む家族の形を叶えようと奮闘してくれる人たちがいるのが嬉しい。そして「やさしい猫」の民話は、こんなふうに解釈されるのか、いやできるのかと思うと、大人が留まっている間に、子がどんどん成長していく姿もみせてくれた。