月夜の美しい夜だった。


白波が、打ち寄せ、波頭が月夜に舞う。


崖の上に一組の人影が見える。男は、長谷寺の青年層 清玄。男より小さい稚児の姿が見えるが、名を白菊という。二人は、互いに相愛の仲であったが、清玄が僧侶の身分の上、許されぬ仲である。


「清玄さま」


「白菊」


二人は、無言で見つめあう。僧でありながら、稚児である白菊との出会いは、ふとしたことであった。

白菊が主である殿様の文使いで、寺を訪れた際、犬子に激しく唸られ往生していた白菊であったが、そのとき助けたのが、寺に入ってまもない僧侶の清玄であった。


「どうしたの。犬子は追い払ったよ。もう大丈夫」


「・・・・・・ありがとうございます」


稚児の白菊は、潤んだ瞳で、清玄を見つめる。白い肌、桜色にそめた頬、うなじにかかる真直ぐな黒髪。その姿、真直ぐな気性とその心をあらわすような恥じらいに、僧侶でありながら清玄の心はときめいた。

まっすぐな瞳で見つめ、清玄の心を射抜いたのだ。


「私は、清玄といいます。君の名前は?」


「白菊です」少年は、恥ずかしそうに瞳をふせ、応えた。そのときから、清玄は白菊に心を捉えられた。修行の身でありながら、彼の心は白菊に捉えられたのだ。穢れなき乙女のような容貌とその無垢な魂に、彼は惹かれずにはいられなかった。


白菊もまた、清玄の美しさと彼のにじみ出る優しさに惹かれた。主の使いで寺を訪れ、二言三言だけ言葉を交わすだけだが、ほんの一時にしかない時間だけだけれど何か濃密な時間を過ごしたような気がした。


二人は、互いに惹かれ相愛になるのに時間はかからなかった。僧侶である清玄と稚児である白菊に、成就の道はない。今生で結ばれないのであるのなら、生まれ変わって来世で結ばれたいと想う二人は、心中を決意する。


そして月夜の晩に二人が崖の上にいる。


「清玄さま、私は決して後悔しません」


「白菊、私もだよ」


「これを二人で交換しよう。これが未来での証しだ。来世できっと互いがわかるための印だよ。」


清玄は香箱を白菊に渡した。香箱には、互いの名前が書き記されていた。二人は、互いを抱きしめ、今生の別れと来世の幸せを祈った。


「清玄さま、おしたいしてます。必ず生まれ変わっても、あなたを愛しております」


「白菊、私も君を愛している。生まれ変わっても君を必ず見つけて愛するよ」


二人は、抱き合い深い口付けを交わす。今生の別れを惜しむように。


白菊は、先に海へ飛び込んだ。「清玄さま、愛しております」と、そして清玄も海へ、続けて飛び込もうしたが、白菊が飛び込んだ際の水しぶきをあびた清玄は、気後れしてしまい、その場にへたり込んでしまった。


「う、」白菊の後を追うべき、崖から飛び込もうとするが、怖気づいてしまいどうしても飛び込めない。


「白菊」どうしても、躊躇して飛び込めない清玄、すると波間あら怪しい火の玉が浮かび上がってくる。


やがて岩陰からは白鷺が一羽飛び立った。あれは、白菊丸の魂では・・・・・・・


怖気づいた清玄は、ただただ念仏を唱えるのだった。


「許してくれ、白菊。一生私は君を弔い、愛しているのは君だけだ。。。。」


清玄が、ただ一人が生き残ってしまった。


清玄の頬には、熱い涙の雫が流れ、目はただ白鷺を追っていた。