雪原に3匹の猫の咆哮がこだまする。


家は自営なので鳴らない電話をまってると、外でのんきにノラ猫の

えさやりをしている連れ合いが「ちょっとこい」と呼ばれた。

「あれを見ろ」と指差した方向を見やると、3町歩はある家の南側の

たんぼで3匹がにらみ合いをしていた。

赤猫2匹に白黒猫1匹がすごいうなり声を上げていた。

赤猫1はおそらく家の東隣の田んぼをはさんだ家の赤猫で、私が

心の中で力石とよんでるヤツである。眉間の三日月の傷がチャー

ムポイントだ。


赤猫2は南隣の田んぼをはさんだ家の赤猫で、力石を父とする猫

で私はジョーとよんでいる。裂けた右耳とやはり力石と同じで眉間に

三日月の傷を持つ。


我が家では2匹は乱暴物のアカトラと呼ばれ忌み嫌われている。

2匹のアカトラにとって我が家はずっと彼らの縄張りであり、それぞ

れの家路の通り道であったが、わしらが2匹の猫をともない引越し

してきてから、気に食わないのだろう。廊下やサンルームでのん

びり寝そべる我が家猫を外から威嚇するわ、リードをひいて家猫

の散歩中に目が会うだけ一触即発で家の猫は興奮状態になり、

止めようとして家猫に噛まれた私は、数週間の病院送りとなった

こと2回だった。外猫にエサをやって我が家に居ついた猫も成長し

立派なオス猫になるとヤツらの餌食となり、翌朝大量の毛を残し

消えていく。力石とジョーは親子だがライバルである。昨年の夏、

彼らは田んぼでものすごい争いをしていた。時間にして30分田ん

ぼで取っ組み合いの大喧嘩をやらかしているが、決着はいまだ

ついてないらしい。


白黒猫は家ではおかあちゃんとよんでるが、私は心の中で洋子

とよんでいる。よそで赤ちゃんを産んでは生まれて1ヶ月たつと

1匹づつ口に咥えては、我が家につれてきてエサを与えさせる

健気な細身の美人猫である。惜しむらくは尻尾の付け根の茶

色の毛が混じっているところだ。彼女は育児放棄、放任主義的

ババ猫の仔なのに自分が母親になるとかなり大きくなるまで手を

かけ育てていて涙をさそうほどだた。


力石とジョーと洋子のにらみ合いは時間して5分ほど続いた

だろうか。先に動いたのは力石とジョーだった。取っ組み合い

になりキックとパンチの応酬だ。白い雪原に舞い上がる赤い毛、

ギャーという鳴き声とともに、勝負があったらしい、負けたのは

力石だった。雪原のなかを猛スピードで家へ帰っていった。

ジョーは勝利した。洋子への求婚の権利を勝ち取ったジョー

だったが時すでに遅くは洋子は家に来てエサを食べていた。

洋子がいないことに気付いたジョーは、洋子を追って血を流し

ながら、我が家に向かって走った。そこへ連れ合いがほうきを

投げつけたため、ほうほうのていで逃げ帰ることになった。


ジョーは、うさばらしなのか、数時間後に我が家の玄関にきて

外のら数匹にけんかをうってしっかり勝利し満足げに去って

いった。

あとには数匹分の毛だけが残されていた。
その毛を見て、うちの連れ合いは復讐に目を輝かせていたが、

私は知っている、エアーガンで何度威嚇されようが、人間が

何度脅しても彼はめげないヤツだということを。


泣くなジョー、明日も頑張れ。