近所の古本屋さんで立ち読みしていたら
あなたは本が好きだからと おまけしてくれました
また別な日 立ち読みしていたら
あなたはかわいいから これあげる
と本をくれました
おばさま あなたは商売には向いてません
でも人として こうでありたいと強く思います
6年前 九州から上京して 一年が経とうとした夏
当時 遠距離恋愛をしていた彼女が初めて東京に遊びに来た
初めて渋谷を歩く沢山の人を見た彼女は 文字通り目を丸くしていた
そんな彼女を面白いなと感じながら
僕も最初は驚いたんだよと隣で言った
「祭りとかじゃないんだよ いつも こうなんだ」
肩と肩が付きそうなくらい密集して 交差点を一斉に渡る人たち
しばらくそれを眺めていた彼女が
ようやく
「ねぇ?」
と僕に話しかける
彼女は
「この人たちは雨が降ったら 一人ひとつづつ 傘ば差すと?」と真顔で聞いた
最初は冗談を言ってるのかと思ったけれど
彼女の表情は変わらず 本当にここにいる全員がそれぞれ傘を差すことが
信じられない様子だった
「だって 傘ば差す場所なんて無かたい。 あと勿体無かよ」と加えていった
あれから6年も経っているのに
ここに来るたびに 僕はあの時の事を思い出す
あの時の 彼女の顔も。
そんな彼女を笑って 馬鹿にした自分も。
相変わらず渋谷には 大勢の人がいて
その中に自分もいて
隙間を見つけながら 歩いている
だけど雨が降れば それはそれで適当な距離が空き
皆が傘をさすだろう
それが当たり前だ
だけど・・・・・と僕は想像する。
渋谷を歩く
空は怪しい雲行きになってきて
ぽつりぽつりと雨が降り始める
道行く人が 傘を差す
前を歩いていた人は横を歩いている人に
「いいですか?」とか言いながら
その人の傘に入る。
僕も隣を歩いているおじさんの傘にお邪魔する。
「降るっていってましたっけ?」とか言いながら。
おじさんも「午後から60%だったよ」とか言ったりする。
それが 彼女が思っていた 当り前の出来事。
うん それも悪くないと 僕は思う。
それと同時に あの時彼女を馬鹿にしてしまったけど
馬鹿だったのは自分だと思い
久しぶりに 彼女に電話 してみたくなる
「渋谷の雨のはなし」
河原涼太郎より
当たり前を当たり前と思わないこと
いつもあなたから 教わりました
ありがとう

