フィクション作品
一章:少年、李厳(リゲン)の過去
双国の都、飛都。
軍師・遼官(リョウカン)の邸宅にある
遼士塾の桜の木の上に李厳はいた。
李厳はいつもそうだ。高いところへ登っては
自らの故国である翔国のあった西を見る。
遼官は思う。…哀れな子よ。
李厳の故国、翔は2年前内乱によって滅んだ。
いわゆる軍のクーデターである。
皇帝側の将軍であった李厳の父、李鶴。母、翔姫は
共に反乱軍に殺害された。
李鶴は小姓、仁兵衛に李厳を託し逃がした。
頼った宛ては旧知の仲である双国丞相の遼官であった。
遼官は李厳の類い希なる武略の才を見出し
皇帝・愁の娘の婿養子とした。
李「先生!あの子らでは相手になりませぬ!もっと強う者は居らぬのですか!」
遼「黙れ李厳!戦場に出たこともない餓鬼が粋がるでない。第一、そなたは遼葛には軍略において何一つ敵わぬではないか!武だけで将になれると思うなたわけが!」
李「その遼葛は我が義弟となりましたゆえ、俺は軍略すらも手に入れたようなものでございます。」
遼「まさか義兄弟の契りを交わしたのか!さような下らぬことを教えるのは大方猛辰じゃな?儂の部屋の酒がなくなったことを問いただす手間も省けたわ!降りてこい李厳!」
李「いやにございます!」
李厳が逃げようと桜の木を飛び降りる
遼「これ!武将を志す者が背中をみせるな!」
李「三十六計逃げるに如かずでございます!」
?「まったく元気な婿殿だ。内裏にまで声が響きよるわ」
遼「空元気でござろう。内心まだ傷が癒えておらぬのよ。母に庇われた己の弱さという傷がの。それより皇帝が軽々しく来て良いのか?愁」
愁「よいではないか。本来妻が死んでおらねばわしは将軍であったのだ。事実わしは将軍のほうがあっておるしな。それより今日は話が…」
遼「言わずともよい。大方わかっておる。あやつの初陣の話であろう。」
愁「翔を滅ぼした典国がいよいよ我らへ攻めてきよった。遼葛や猛辰も共に初陣とせよ。あやつらには多少骨のある戦が良かろう」
遼「ふたりはともかく李厳はおすすめ出来ませぬな。相手がよろしくありませぬ。」
愁「それを踏み越えねばあやつは将軍になれぬ。いつかは越えねばならぬのだ。では勅命を下す。遼官は3万の兵をもって典国を撃退せよ」
