遊戯王ゲームは魔法、罠、モンスターカード、この3種類のカードを用いて互いのライフポイントを削りあうゲームだ。魔法カードには相手フィールドに存在するモンスターを破壊したり自分フィールドのモンスターを強化するカードなどがある。罠カードには相手のモンスターカードの攻撃を止めたり弱めたりする効果があり、モンスターカードには相手のライフポイントを削る役割があるのでこのゲームのメインカードになる。またこのモンスターカードには種族と属性があり、種族でいえば悪魔、天使、ドラゴン、魔法使い、獣、戦士などがあり、属性では、火、風、水、闇などがある。そして各カードにはそれぞれ固有の絵とテキストが記されており、絵にはそれを象徴する事柄が、テキストには各カードの効果等が記されている。
このゲームで勝つ秘訣は、関連しあう同じような種類のカード(同じ種族や同じ属性)でデッキを固めることだ。例えば悪魔族のモンスターをサポートする魔法カードをデッキの中にいれたとして、その効果を得るには悪魔族のモンスターカードをいれる必要がある。それも多ければ多いほどその魔法カードの恩恵を与る可能性はあがる。遊戯王ゲームではこういった各カード間における効果の有益性をより多く得ることによって相手より優位に立ちゲームに勝利するのだ。またこういった各関係性によって生まれる有益性をシナジーと呼び、このゲームにおいてはシナジーの多様性や太さが勝敗を分けることになる。そしてシナジーを高める価値はなにも勝率をあげることだけにあるわけではない。このシナジーという考えかたを優先させてデッキを組むと、必然的にデッキの中には統一された世界観ができあがり、ここにもこのゲームを楽しむうえでの魅力が生まれる。
シナジーの高いデッキには固有の、それも整合性のとれた世界観ができあがる。例えば先ほどの悪魔族デッキには多くの場合がおどろおどろしいような世界観ができあがるはずだし、魔法使い族デッキならば魔法カードを絡めたファンタジーのような世界観のデッキになる。プレイヤーは戦いながらそういった世界観を楽しむことができる。さらにプレイヤーはそうしたデッキの中に組まれたカードをプレイする中で特定のシーンやイメージを連想することができる。例えば大きな爪をもった姿のモンスターカードで相手のモンスターを破壊するときには、きっとそのプレイヤーの想像の中ではその大きな爪によって相手のモンスターを引き裂くようなイメージを連想することができるし、魔法使い族のモンスターカードで敵を破壊するときには魔法の力を使って敵を倒す姿を連想できる。このようにして「敵のモンスターを倒す」という同じ行為でも、カードの種類が異なればそこから生まれるイメージも異なるので、プレイヤーはカードごとにたくさんのイメージを楽しめるのだ。また今あげた例は単体のカードから得られるイメージだが、他にも複数のカードの関係性によって連想できるイメージもある。そしてこれを説明するにあたって俺の中で象徴的な存在となっているのが「ダイダロス」だ。ダイダロスというのは水属性、海竜族のモンスターカードだ。遊戯王ゲームにおけるこのモンスターの効果は「自分フィールドの「海」カードを墓地におくることで、場に存在するダイダロス以外の全てのカードを墓地におくる」ことだ。解釈は自由だが、ここから得られるイメージはなんだろうか。俺の場合は、海を支配する怪物ダイダロスが引き起こした津波によって見渡すかぎりのものすべてが破壊されてしまうが、その破壊の代償によって豊かで美しい海もまた消えてしまう姿だ。こんな風にして一枚のカードが持つイメージだけではなく、プレイによって発生する複数のカードの関連が生み出すイメージもある。
他にも例はある。これも俺が好きなカードだが、デーモンシリーズを例にあげよう。デーモンシリーズはいくつかのサポートカードがあるが、そのプレイングの起点となる主力のカードは「デーモンの呼び声」という罠カードである。このカードの効果は「手札の悪魔族モンスター1体を墓地に送り、墓地に存在するレベル5以上の「デーモン」モンスター一体をフィールドに特殊召喚する」だ。ここで浮かびあがる俺のイメージは、死者の国に存在する悪魔デーモンが現世にいる他の悪魔の魂(?)を生贄に現世に蘇る、といったような景色だ。
このように各カードにはカード間での固有の動きがあり、その動き自体にもまた固有のイメージがある。このゲームにおける戦いはプレイングの裏に存在するこういった空想の応酬であり、この空想が連なっていくと最後に一つの物語ができる。だからこのゲームは互いのプレイヤーが戦いながらも協力して一つの物語を作っていくことになる。遊戯王ゲームにおける一次元的な楽しみ方を勝敗の奪いあいとするならば、二次元的な楽しみ方はその裏にあるこういった物語のメタファーだ。このゲームの楽しみかたは色々あるのだが、俺の場合はこうしたイメージや物語を愛でることに楽しさを抱く傾向が強い。だから俺の場合は例え強力な効果を持っていようが、デッキの世界観を壊してしまうようなカードはほとんどいれない。ただしこういった傾向を重視したデッキはロマン派とよばれて、勝つことだけを優先したデッキには負けてしまうことが非常に多い。要はあまり強くないのだ。だからこれらを踏まえたうえでの俺の理想のデッキとは、物語性やイメージを優先しつつも、勝負にも勝てるようなデッキだ。しかしそういったデッキをつくることはなかなか難しい。このゲームにつきまとう俺にとって最も困難なことはこのロマンと実用性のバランスや調和だ。ただしこれを簡単に可能にさせる方法もある。それはテーマカードによるデッキだ。
テーマカードとはカードの販売の段階で予め特定の組み合わせを用意された、固有のカード構築がされているカード群だ。例えばレッドアイズシリーズを例にあげると、レッドアイズブラックドラゴン、レッドアイズワイバーン、レッドアイズインサイト、レッドアイズスピリッツ、紅玉の宝札などのカードがある。これらはこの「レッドアイズ」という括りの中で掛け合わせなければいけないという制約もあるがその効果は他の汎用効果よりも非情に強力なものが多い。
このレッドアイズシリーズにおけるレッドアイズインサイトのコンボを紹介しよう。レッドアイズインサイトとはデッキのレッドアイズモンスターを墓地に送ることで、デッキ内のレッドアイズ魔法・罠カードを一枚手札に加えられる効果を持つ。これによりデッキ内のレッドアイズブラックドラゴンを墓地におくり、レッドアイズスピリッツを手札に加える。このレッドアイズスピリッツは墓地の「レッドアイズ」と名前のつくモンスターを自分フィールドに特殊召喚できるカードだ。これを使えば先ほど墓地に落としたレッドアイズブラックドラゴンを特殊召喚することができる。レッドアイズブラックドラゴンはレベル8モンスターなので通常召喚するにはフィールドのモンスター2体を生贄としてリリースする必要があるのだが、このコンボを用いれば瞬く間にこのモンスターを召喚することができる。このコンボの強いところは単に強力なモンスターを瞬時にだせることだけではなく、同時にデッキの圧縮を行い、手札に不要なカードが重なることを防ぐことが出来るところだ。
このようにテーマカードには固有の強力な効果やコンボが存在する。遊戯王ゲームにおいて強いカードとはほとんどの場合がこのテーマカードになる。しかしここでもまた俺にとって問題がある。それも2つ。1つは強いテーマカードは大勢の人が使うということ。もう1つはそれによりミラープレイという同じテーマ同士での戦いになってしまうことだ。これはプライベートな問題だし憶測にすぎないが、俺はおそらく特別でありたいという欲求が強い。そして俺にとっての遊戯王ゲームにおける特別とは勝敗の結果よりも、その最中の方法にあるのだと思う。またミラープレイには前述したような互いに作り出す物語がない。何故ならミラープレイは同じ世界観同士の衝突だからだ。どんな映画やマンガにもたくさんの種類の登場人物がいて、それぞれが異なる価値観をもっていて、そのぶつかり合いにより互いが、他者やまた自分自身や世界を知って、鑑賞者はそこに面白さを見つけるのだと思う。だが流行のテーマデッキによる煩瑣するミラープレイの場合は、いわばみんなが同じ人物同士で会話しているような感じだ。そんな変な物語は俺の想像では成立し難い。こうなるとこっそりと存在している「物語のメタファー」という裏の側面は完全に排除されて、簡素な勝敗の行方を取り合うだけのゲームになってしまう。俺にはどうしてもこれを受け入れることができない。だから俺は流行の強いテーマデッキを使うことはほとんどない。
遊戯王ゲームにおける俺の障害はこの「ロマンと実用性のバランス」と「強いテーマデッキを使えない」ことの2つだ。俺はこの2つの障害をくぐりぬける、針の穴を縫うようなデッキ構築をいつも考えている。俺にとってはそれが悩みであるが、同時に少し楽しみでもある。