サイモン君♂ 10ヶ月 7・7生まれ


日は少し遡って、5月12日の午後9時。あるコミュニティーサイトにサイモン君(グレートピレニーズ)の里親募集のスレッドが立ちました。
スレを立てたのは三重県に住む「花さん」という、約2週間前に離婚をし、二人の子を持つ女性。募集のきっかけは、いわゆる『家庭の事情』でした。花さんはスレの中で、全てを明かしました。姑が多額の借金をして、名義を貸していた元旦那に、その負債が来て、他にもローン等も有り、離婚後も慰謝料や養育費すら貰えず、サイモンのエサも一週間分しか残っていないと。財布の中にも「4000円弱しか無い」とまで、吐露していました。そんな彼女も実は、数ヶ月前に、幸せにすべくサイモン君を我が子に迎え入れていた「里親」だったのです。

[私は初め、事情はともかく、グレートピレニーズという、犬種の中でも「超大型犬」に分類される子の里親募集なんて、かなり難しいのではないか?と、考えていましたが、その考えは簡単に否定されました。]


上記のスレに対する、彼女への批判のレスは言うまでもなく一つも上がりませんでした。
レスには直ぐに同情、応援の声、サイモン君のエサを心配した「ホームセンターには無料のフードサンプルがありますよ!」などの情報が上がりました。そして次の日には、山形県に住む「あつやさん」という方が受け入れに名乗りを上げましたが、事情で山形から三重までの遠出は出来ないという。その後直ぐに「じゃあ、三重から山形へリレーしましょう! サイモン君を車で運んでくれる方々を募りたい。」とのレス。
このレスに対して、「関東まで来てくれたら、東北まで行けますよ!」、「平日は無理だけど、土日なら協力出来ます!」、「高速使うなら、カンパします!」等々、次々にレスが上がりました。そして、あれよあれよという間に4人の走者と、一人目の走者が花さんの自宅へ向かう途中に、大型のゲージを提供する一人の方が決まりました。

[ここまでは全て、顔さえ知らない者同士が、ネット上と個々のメールのやり取りのみで決まった事でした。]

スレが立った2日後の昼過ぎに、一人目の走者の出発が決まり、深夜(15日の午前0時以降)には、花さんの元からサイモン君の『命のリレー』が始まっていました。

美容室の善意によって、トリミングされたサイモン君


一人目の走者は深夜からの出発とあり、こまめに休憩を取りながら随時、画像と共にサイモン君の状態や現在地などの状況をレスに上げてくれました。
その後、二人目から三人目、三人目から四人目へとサイモン君の『命のバトン』は繋がって行きました。その後の毎回の走者の方々も、サイモン君の状態や状況等々、逐一レスに書き込んでくれました。二人目の走者に至っては、自宅に招き入れ、一泊させてまで(勿論、屋内で)、サイモン君の体を休ませていました。

そして16日の午後、新しく里親になる、「あつやさん」に最後のバトンが手渡されました。「あつやさん」は4男1女を持つ、多頭飼いの方で、後の日記で『5男 サイモン』と記されていました。
三重から山形、車を飛ばせば半日掛かるか掛からないか位の距離。それが約2日間近く掛かったのは、サイモン君のストレスや体力の消耗を考え、それぞれの走者が時間を掛け、手間を取る事を苦ともせず、『命のバトン』を繋いで来たからに他ならない。
それらは最初から全て、当たり前のように「ネット上とメール」で決まっていた事でした。


私は一連の流れを幸いにも、「リアルタイム」に見る事ができました。
只、感動しただけで記事にした訳ではありません。

このネット上で行われた事は、命を粗末に扱い、命を軽んじる者達がいるこの世の中で、「たった一つしかない命」、「一つの命に重きも軽きも置かず」、たった一つしかない『命の尊さ』を教えてくれたように思えたからです。

今も現実に、「人」の温もりを感じる事無く、「人」の手によって消されてゆく『命』があります。

全ての人々がその眼差しで、『たった一つの命』を見つめてほしい…

全ての人々がその眼差しで『尊い命』を見つめ直してほしい…





あまたの命が消えゆく中


たった一つの命の


幸せが生まれました





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