22歳の初夏、
僕は上尾、彼女は幸手に住んでいた。
付き合ったばかりの僕らは毎朝大宮駅のボロい方の出口で待ち合わせして、一緒に駅から歩いて5分くらいの会社に通っていた。

とは言っても時間にルーズすぎる僕が朝ちゃんと行くのは週1日もあるかないかで、大抵は昼休みが終わる頃、ひどい時には夕方になって出勤なんてこともザラだった(終業1時間前とか)

総勢2-30人、しかも2-30代しかいないその会社は、職場というよりは学校みたいな感覚で僕と彼女は隣同士の席だった。
当然真面目に仕事なんかするわけなくて
好き放題喋って遊んで、勤務時間のほとんどをゲームしてたり、2人でビルの非常階段でイチャイチャしたり、
そんな毎日を過ごしていた。

ただ、1日1時間くらいは本気で集中して結果だけは出していたから給料+成果報酬で22歳にしてはそこそこ多くもらっていた方だと思う。その甲斐あってめちゃくちゃな勤務態度でも許してもらえていた。

ある日勤務中に僕と彼女は大喧嘩をした。
僕は事務所で大暴れをして机やらをめちゃくちゃにした。止めに入る周りの人等。
メンヘラ気質だった彼女はそのまま会社を飛び出しラインで自殺を仄めかし行方をくらました。

僕もそのまま会社を飛び出し、半年ほど居候させてもらってる上尾にある友達の家に帰り、その友達に起きた事を話した。
実はその友達も同じ会社で働いているが、その日そいつは仕事をサボって家で一人で飲んでいた。

今までにも何度かそんな喧嘩の話を聞かされていた友達は
もう放っておけ、そう言った。
確かに付き合ってまだ日も浅いし、正直トラブル続きで長続きしそうな気もしなかった。
今までだったらとっとと別れていたようにも思うが、
でも何故かその彼女の事だけは諦めきれなかった。相当好きだったんだと思う。いや、相当好きだった。

2人でスマホに入れていたゼンリー(位置情報アプリ)は数十キロ離れた幸手の彼女の実家近くの市民会館で更新が止まっていた。
既に電話は着拒、ラインはブロックされているが、最後のラインに"高いところに登っている"とあったから、きっとその市民会館の屋上にでも上がったのだろうと思った。

自殺なんて口だけだろう、と内心思ってはいたが、
口も聞いてくれないほど怒っていた彼女に対し、これを口実に本気で心配したふりをして探しに行けば、流石に話くらいはしてくれるだろうと思った。

ただ念のため、万が一があってはいけない、
そう思った僕はとりあえずその市民会館に電話をかけ、施設屋上から飛び降りると知り合いから連絡があった、今すぐ屋上を見回りに行き、それらしき人がいたら警察にでもなんでも伝えてくれ、
とかなり大袈裟に伝えた。

市営施設であれば流石にこんな電話が入れば知らんぷりできないだろうし、なるべく多くの人に伝わってなるべく大騒ぎになればいいと思った。
数十キロ離れた僕に出来ることといえば、なるべく大袈裟に伝え、警察でもなんでも巻き込んで現地にいるマトモな大人に頼るしかない、そう考えた。
絶対に万が一だけは起こさない為に。

僕もすぐさま居候している上尾の友達の家を飛び出し電車を乗り継いだ。
幸手に着いて、やっと彼女の実家付近で歩いている本人を見つけ、なんとか宥めようとするも見事に振らてしまう。

彼女の家はそこそこ田舎の方だった。
放心状態で帰路に着く、オレンジの夕日に虫の声がする夏の夕暮れだった。

幸手駅に向かって歩いていると後ろから一台の車が近づいてきて僕の横に止まって窓が開いた。
さっき振られた彼女だった。
迷惑かけたから責めて家まで送ってくと。
助手席に座って、数十キロ離れた僕の家に着く頃には夜になり、いつのまにかさっきの別れ話も無くなっていた。

僕を降ろして家に帰ろうとする彼女を
今度は僕が引き止めた。
このままどっか行ってしまおうと。

結局2人は夜通しドライブをして、
スパ銭に行って明け方ネカフェで歯磨きと充電をして、彼女の家に車を返し、
幸手駅近くのすき家によって、そこから電車に乗って二人で何事もなかったかのように会社に向かった。

2人は必死に頭を下げて(形だけ)、
30歳手前の僕らの上司は呆れつつもなんだかんだ笑って許してくれて
勤務後はお説教という名目でその上司カップルに連れられて飲みに行った。

ぐでんぐでんになって、その日は上尾の僕の家(居候してる友達の家)に彼女と二人で帰って、
夜中までパブジーして適当にセックスして寝る。
そして、翌朝また何事もなかったかのように2人で出勤した。


それから一年が経ち僕達は結局別れてしまった。
あんな夏はもう一生来ないと思うし、あんな日々を送ることもないように思う。
多分あんなに人を好きになることも無い。

どうか、彼女が幸せでありますように。