<友よ大丈夫か>
六畳一間、水道、ガス、流し台付き、トイレ共同で、家賃がひと月、7,500円。
住めば都というやつです。
このころ私は勉強が好きでもないのに、5年目の学生生活を送っていました。
友達はみな社会人になっています。
そして私は自堕落な生活を継続中でした。
この日も昼頃までだらだらと寝ていました。
すると、誰かに呼ばれた気がしました。
誰かが私の部屋に立っています。
「誰だ?」
「え!お巡りさん!?」
「なんでお巡りさんが?」、とたんに目が覚めました。
「学生さんは気楽でいいねえ」
「あ!」
お巡りさんは、わが友でした。
中学からの付き合いの友です。
しかし、高校と大学は別々で、会うのは年に1度ぐらいでした。
大学を卒業すると、実家のある仙台に戻って、警察官になったのでした。
警察官になったのはもちろん知っていましたが、「なぜ俺のアパートに?」 「巡回だよ巡回、ここの地区の交番に配属になったんだ」。
警察学校を卒業しての初任地が、私の住んでいるところとは。
これも腐れ縁でしょうか。
しかしいくら友達でも、制服のお巡りさんが、私の部屋でヘラヘラしているのは、やっぱり変です。
そもそも新米のお巡りさんが、公務をさぼっていいんでしょうか。
新米のお巡りさんは、15分ほど私の部屋で油を売って、「また来るよ」と言って帰っていきました。
「そうかぁ、みんなもう社会人になったんだなぁ」、駄目学生の私は、何となく取り残された気持ちを感じてしまいました。
ふと感傷的になった私でしたが、そんな私の目に入って来たものがありました。
「あいつ、帽子忘れていきやがった」。
警察官が公務中に帽子を紛失するというのは、大問題で
はないか?。
新聞ネタ、ニュースネタになって、世間に知られればあいつの将来が台無しになる!。
そんな大問題を起こしたことに気がつかず、あいつは呑気に巡回している。
すぐに交番に届けに行かなければ。
と、思いましたが、
お巡りさんの帽子などこんなに間近で見ることもないので、しばし鑑賞しました。
そして交番に持っていこうかという時に、
「帽子あるか?!」。
新米のお巡りさんが部屋に飛び込んできました。
途中で気がついたようです。
「あるよ」。
「やっぱり、ここだと思った」。
安心しながらも、照れくさそうな顔をして、新米さんはしっかり帽子をかぶって帰っていきました。
メデタシメデタシでしたが、私としては、交番に「落とし物です」と言って、持っていきたかったなぁと、少し残念な気持ちもありました(笑)
この一件以来、彼はお巡りさんの制服で私の部屋に遊びに来ることは一度もありませんでした。
そんな彼でしたが、不祥事を起こすこともなく、手柄を立てることもなく、無事に警察官人生を全うしました。
私も大した人生ではありませんが、人様に迷惑をおかけすることなく、何とかやってきました。
もう40数年も前の話でした。
今日も長い間おつきあい頂き有難うございました。