第一部第一章「地上最強の傭兵が異世界を行く-20」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「悪魔の苗床」

 翌朝同じメンバーがギルドに集まった。今回は目標地点が定まったので少数精鋭で行く事にした。

 ただし実際に森の中心に向かうのはゼロとミレ、それとクリフトの3人だ。カリヤス達は万一に備えてギルドで待機する事になった。

 始めはゼロとミレだけだった。それは魔物の召喚士も一緒に行かないとワイバーンをコントロール出来ないと言ったからだ。

 ワイバーンに乗れるのは大人が2人と子供が一人だったからそうなった。しかしとゼロは思った。もしかするとあれならワイバーンをコントロール出来るのではないかと。

「ミレ、グレムを召喚してみろ」
「うん、いいけど、何故」
「あいつにやらせてみる」

 ミレがグレムを召喚するとミレの手に金剛剣が現れた。ゼロがお前はワイバーンと話が出来るかと聞くと、ワイバーンはそれほど知能が高くないので言葉は話せないが命令は出来ると言った。

「それで十分だ。なら俺達を森の中心まで運ぶように指示してくれ」
「たやすい事じゃ」

 驚いたのは召喚士だった。自分の召喚した魔物が自分以外の命令を聞くとは思わなかったからだ。しかし相手が精霊王だとわかると納得してしまった。

「なぁお前ら、一体何やってんだ。それって反則だろう」

 クリフトがそんな事を言っていたが無視した。

 こうしてワイバーンのコントロールを握ったゼロ達3人は森の中心に向かって飛び出して行った。この日は良く晴れ渡った良い天気だった。

 森自体は上から良く見渡せたが森の中は木々に囲まれて良くわからなかった。ただ強い魔力を持った魔物達が中心から遠ざかっている事だけは感知された。

 やはり森の中心に何かある。ともかくゼロ達は中心に向かった。そしてそこで見た物は霧に包まれたドームの様なものだった。

 いや霧自体がドームのように周りに広がって行っていると言って方がいいだろう。「何だあれは」とゼロが言うとクリフトは何も答えず少し体を固くしていた。

「クリフト、どうかしたのか」
「引き返そう」
「なに」
「引き返そうと言ったんだ」

 クリフトの額には汗が滲み出て小刻みに震えていた。

「お前あれが何か知ってるんだな、教えろ」
「教えた所でどうにかなるもんじゃねー」
「じゃーこのまま放っておくと言うのか。もしあれが町に近づいたらどうする」

「いや、あれは移動はしねぇ、しかしこの周囲の魔物や生き物全ては死に絶えるだろうな」
「それを承知で放置しようと言うのか。お前らしくないな」

「どうしようもないだろう。俺達じゃどうにもならねーんだよ」
「どうにもならないかどうかはやってみないとわからないだろう。ミレ、ワイバーンを下ろせ」
「や、止めろゼロ。死ぬ気か」

 ゼロはクリフトの反対を押し切ってワイバーンを霧の近くに着地させた。それは決して濃霧と言うようなものではなかった。比較的薄い霧だ。ちゃんと向こうが見渡せる。

 そしてその霧の中心に細長い箱の様な物があった。そこからは多くの蠢く触手が四方に伸びていた。

「ゼロ、ミレ、あれには近づくな。あの触手は魔力を吸収するんだ。人間であろうが魔物であろうとな」

 なるほどそう言われれば周囲には干乾びたような魔物の死骸が散らばっていた。中心部はその死骸も風化してしまったのか逆に綺麗になっていた。

「あれは何だ」
「あれは『悪魔の苗床』と呼ばれているものだ。あの触手が魔力を吸い取り苗床にするんだ」
「何の為に」

「より大きなものを生み出す養分にする為だ」
「より大きなもの」
「魔王だ」

 あの「悪魔の苗床」は魔族達が時々各地の魔力が密集している辺りに配置してその魔力を吸収し魔王復活の為の養分にするらしい。

 クリフトも10年前、「魔刻の谷」と言う魔境でこれと同じものに出会ったらしい。

 その時のメンバーがクリフトと今ソレーユのギルドマスターをやっているキリマンとあの盗賊のボス、イエローキラー、それと当時クリフトの恋人だった魔法使いのバーバラだった。

 彼らはその「悪魔の苗床」を殲滅しようと果敢に攻めたがまるで歯が立たず逆に魔力を吸い取られ絶体絶命の危機に陥った。その時バーバラが自分の命を犠牲にして最後の魔法を使って辛うじて3人を逃がした。

 それ以来キリマンはより強い戦力を求め、イエローキラーは魔物に恐怖を抱き人間相手の盗賊に転落した。

 クリフトはバーバラと一緒にAランクになろうと約束していたのでそれ以来力は求めながらも昇格を一切拒否していた。正に三者三様の対応だった。

 僕があいつを倒すと言ってミレが駆け出して行った。そして魔力矢の爆裂矢を放ったが何も起こらなかった。

「やめろミレ、いくらお前でも無理だ。あいつには一切の魔法が通じないんだよ。そして魔力もな」

 なら切ればいい。そう言ってミレは金剛剣で触手を切り出したが何故かいつもの切れの冴えがなかった。いやそれどころか殆ど切れなかった。

 金剛剣はそれ自体で魔力を持つ魔法剣だ。ミレの魔力が損なわれる事はないはずなのだがミレの動きも悪くなってきていた。このままではまずいと思ったゼロはミレを抱えてを連れ戻した。

「そう言う事か、この霧が媒体となって魔力を吸っているのか」

 この「悪魔の苗床」は二重構造になっていた。触手から直接魔力を吸い取り、そして霧の中にいる物からもまた魔力を吸い取る。

 だから触手だけに気を付けて戦っていると知らない内に自分の魔力が無くなってしまっていると言う事になる。

 そしてその霧にはもう一つ、ミツバチが蜜に群がるように魔力を持つものを引き寄せる蜜の様な働きもあった。

「なめた事をしてくれる雑草だぜ」

 そう言ってゼロは近くの木の枝を拾い、それでまた木刀を作った。それを引っ提げて「悪魔の苗床」に向かって行った。

「おいゼロ、何をするつもりだ」
「こいつで叩き壊してやるんだよ」
「叩き壊すって、お前魔力が。そうか、お前には魔力がなかったんだったな。ははは、これは面白い。ない所からは吸い取れないか」

 ゼロは襲って来た触手を片っ端から切り刻んだ。そして苗床の真横に立ち兜割の態勢に入った。

 その木刀で上段から真っすぐ真下に切り下した。「エイヤー」。勿論気を練り込んだ一刀だ。その剣は悪魔の苗床は真っ二つにし地面もを切り裂いた。

 「悪魔の苗床」はその地面に吸い込まれ今まで貯めていた魔力も放出され森に散って行った。その後には大きくV字に切り裂かれて地面が残っていた。

「本当に飛んでもねー事をするよな、おめーは。「悪魔の苗床」を真っ二つにした奴は初めて見たぜ」

 ミレはまだ少しぐったりしていたのでポーションを飲ませて、「悪魔の苗床」の破片を持ってソリエンの町に帰った。

 「悪魔の苗床」は魔物ではなく悪魔の作った生きた魔道具だった。だからある意味では魔物と言ってもいいのかも知れない。

 この報告を受けたギルドマスターは安堵し、そしてクリフトに言った。

「やっと終わったね、お兄さん」
「そうかもな。しかし俺の仕事はこれからだ。もっと鍛えんとな、ゼロ頼むぜ」

 今回ゼロのやった事はスタンピードから町を救った事に等しい。ギルドからの報酬と領主からも報酬が出る事になったがゼロはそっちは断りギルドへ冒険者の為の援助金に回して欲しいと伝えた。

 領主などに関わったらまた厄介事しか起こらないと考えたのだろう。ゼロらしいと言えばゼロらしい考えだった。

 その翌日から7人の雁首が揃えられていた。それはカリヤスのパーティのメンバーとクリフトとミレだった。

 その日からまたゼロの特訓が始まった。ゼロはカリヤスにお前でもAランクの魔物が倒せると言った。

 それをやろうと言うのだ。しかし彼らは知らなかったのだそれがどれ程厳しいものだとは。

「あのーソーシアさん、こんな事、前にもやらされてたんですか魔法使いの貴方が」
「まだまだ序の口よ」
「わたしもう死にそうです」

 最初は徹底的に肉体トレーニングをやらされた。肉体トレーニングは全ての基本だはゼロの口癖だった。

 そしてまた接近戦の格闘術を教え込まれた。これに関しては前回のクレイ・ウルフの件があったので誰も文句は言わなかった。ただし最後まで立っていられた者はいなかったミレを除いて。

 それが済んでようやく最後の魔力操作の訓練だった。これをする前に全員瞑想と呼吸法を徹底して教えられた。

 それから如何に自分の持つ魔力を意識で操作するかだった。これはミレが一番慣れていたのでミレのするのを真似てやらせた。

 クリフトやクレヤス、それにソイテルは武器を使う。その武器に自分の魔力を纏わせる事だった。

 そして魔力を高め自分の意識で魔力を意識変化させる。つまり魔力付与に近い事を自分でするのだ。

 だから特別な武器はいらない。普通の武器でも国宝級の武器にまで昇格させる事が出来る。ゼロが使う気功剣のように。

 これはもう劇的な進化だった。今まで切れなかった物がまるで豆腐を切るようにスパスパ切れた。固い甲羅を持つ岩石タートルも問題ではなかった。

 特にクリフトは剣に魔力を乗せて斬撃で遠くの物を切り裂く事が出来た。クリヤスの剣は螺旋剣、またはドリル剣と言っても良かった。触れる物全てを削岩するように削り取ってしまう剣技だった。

 ソイテルは双刀を合わせる事によって衝撃波を生み出す剣、衝撃剣を生み出した。それぞれが独自の必殺剣法を編み出して行った。

 そして魔法使いのソーシアは火の属性なので魔力を指先に意識で集め弾丸の様にして撃ち出す操作覚えた。

 勿論これは魔法でも出来るだろう。しかしソーシアの使うこれは詠唱もなければ魔方陣の構築もない。瞬時に打ち出せる火の弾丸だった。その威力は込める魔力次第だった。これはもはや魔法とは呼べないものだった。

 エルフのクローネルはミレから魔力矢の作り方を教わっていた。元々どちらも弓矢を得意としていた者同士理解が早かった。

 そしてクローネは魔法槍を考案した。これは持ってよし投げて良しと言う物だった。流石エルフだけあって魔力の操作には長けていた。

 最後のクリーリアは治癒進化だけではなくゼロから薬師としての知識と薬の作り方を習っていた。そして最終的に辿り着いたのがシールドだった。

 魔法と物理的な力から身を守る防壁。普通の魔法壁とは少し違った。これは後方支援として強力な武器になるだろう。しかもそれを意識下で行える。

 それぞれがそれぞれの立場で進化を遂げていた。ミレもまた進化を遂げた。風を操作して今度は完全に空を飛べるようになった。

 そして空気を操作して手から竜巻を作りだした。足に魔力を集めて震脚で小規模な地震まで生み出した。それと共にゼロは特にミレの身体強化に手を加えた。

 今ではミレが意識すれば並みの刀では傷一つ付ける事は出来ないだろう。こいつは一体何処まで進化するのだろうとゼロは思っていた。

 それぞれの成長を見てゼロは「これでお前達は卒業だ。後は自分自身で精進してくれ」と言って修練の終わりを告げた。

「師匠そしてミレちゃん、また何時かお会いしましょう。みんなで待ってますから」

 こうして全員の強化が終わったゼロとミレはみんなと別れてまた旅に出た。

 クリフトはこの後この国最強のSランク冒険者の一人になり、カリヤス達もAランク最強の冒険者パーティと言われる所まで上り詰める事になる。