「ソリエンの返らずの森」
ミレが誘拐されかけた翌日、ゼロは冒険者ギルドにミレを連れてギルドマスターに会いに行った。
「何か用かいゼロ、それとミレ嬢ちゃん」
「俺の扱いが雑じゃないか」
「これでいいんだよ、それで何だ」
ゼロは昨日ミレに起こった事をギルマスに伝え何か知らないかと聞いてみた。ミレが連れていかれた建物と言うのは今は誰もいない空き家のはずだと言う。つまりそれは確実に胡散臭い犯罪の匂いがすると言う事になる。
単なる幼児誘拐かそれとも特定の人物の誘拐か、それならその対象はミレと言う事になる。ギルマスは調べてみると言った。
それだけ伝えるとゼロ達はギルドを出てその建物に行ってみた。確かに今は空き家で誰もいない。ただゼロは確認の為にその建物の中に入った。
入り口から奥に向かって左目で見た。ゼロの左目はセンサー機能と物体の分析機能も内臓されていた。ともかくありとあらゆる波動およびその痕跡を検出する。
確かに4人の男と一人の女がいた。ただし表以外に出入りした形跡がない。つまり転移魔法の類は使われていないと言う事になる。ゼロはこれはある種の闇の組織が絡んでいるかも知れないなと思った。また厄介な事だと。
今はこれ以上詮索しても仕方ないので引き上げる事にした。それよりも先にミレの能力を上げておく事にした。
10階層以下ではこの前のオークよりも更に強力な魔物が出てくるだろう。それに対抗する為にはこちらも強力な力がいる。
まずは魔力矢のアップグレードだ。通常の魔力矢なら討てる。しかしそれだけでは威力が弱い。だから矢じりの部分に爆発機能を付ければいいだろうと言う発想だ。
これは少し魔力操作が難しいがやって出来ない事はないだろう。魔力矢の先端部分にのみ魔力を圧縮させる。そして目標に当たればその力を開放すればいい。まぁ言ってみれば爆弾の原理だ。
このアイデアをミレに与えてやらせてみた。最初は上手く行かなかったみたいだが少しづつ出来る様になってきた。
最終的には1メートル位の岩を粉砕した。まぁ、これなら何とか使えるだろう。これを改良すれば1対多でも使える可能性がある。
そして次はミレが偶然完成させた烈風拳の砲弾形だ。つまりあの烈風を更に凝縮して弾丸の様にして撃ち出す遠距離用の攻撃手段だ。
これは既に基本が出来てるから後は凝縮技術だけだろう。ミレにはこれにも取り組んでもらう。
そして最後は衆敵魔法だ。これはもっと簡単だろう。本来出来ていた体の周りの竜巻を広範囲で行えばいい。
ただしこの弱点は敵も味方もみんな吹っ飛ばしてしまう点だがミレを敵のど真ん中に放り込んでこれを使わせればいい。
取りあえずはこの3点のを完成させる事だ。
果たしてこれで本当にいいのだろうか。ミレは益々兵器化して行くようにも思える。それともう一つ、この様な取り組み方をする魔法使いはこの世界には誰もいない。
つまり魔法使いとは魔法の詠唱をし(もしくは無詠唱で)魔方陣を描いて魔法を発動する。それが魔法の発動条件だ。
しかし今ゼロが教えているのはそのどの定理にも属さない独自の直接的な魔力操作でしかない。これはもはや魔法とは呼べないものかも知れない。むしろゼロの行う気力操作に近いものだろう。
ミレが魔力操作において一定の成果を収めたのでまたダンジョンに潜った。今度はミレだけではなくゼロも魔物討伐をすると言う事で。
前回の最後10階層から始めた。ミレには10階層最後のラスボスを倒してもらうと言う事にしてそれまの魔物はほとんどゼロが倒したがゼロには取って雑魚に過ぎなかった。そして10階層のラスボスはミノタウロスだった。
これはミレに当たらせた。爆裂矢と烈風拳を使って攻撃したが最後の決め手がもう一つだった。こうなれば最後の手段だ。
「ミレ、あれを出せ」
「出していいの」
「ああ、いい」
「グレム召喚」
ミレの手に金剛剣が現れた。
「やっとワレの出番であるかミレ。ほーミノタウロスか、これは懐かしい」
「これ倒せる」
「こんな雑魚、問題ではないわ」
「それじゃー行く」
そう言うとミレは風圧足で駆け上がりミノタウロスの首の後ろから金剛剣を振り下ろした。その斬撃は軽くミノタウロスの首を切り落とした。
「どうじゃ、ワレの切れ味は」
「うん、いい」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「終わったか、ミレ」
「うん」
「これはゼロ殿、久しぶりじゃの」
「あんたも元気そうで何よりだ」
「じゃー今日はこれで引き上げるぞ」
「うん」
「もう終わりかの」
「そうだ」
10階層を踏破したゼロ達は帰ってきた。二回目にして10階層完全踏破と言うのは新記録の快挙だった。
ミレの10階層ラスボスのミノタウロス討伐と言うのは驚きと畏怖で迎えられた。そして魔石の値段は金貨40枚だった。
しかしゼロもそれまでの雑魚達を数多く倒していたので魔石の合計は同じく金貨40枚あった。
ここまでやられれば仕方ないのでギルドマスターはゼロ達をCランクに昇格させた。ギルドマスターの権限で昇格させられるのはここまでだ。
Bランクは昇格試験を受けなければならない。ソリエンのカリヤス達もその試験は受けた。
ゼロはCランクまでならいいがBランクにはなる気はなかった。
Bランクになると色々と条件が付き強制依頼とかもあるのでそんな面倒な事はしたくないと言うのが理由だった。取りあえずは今の状態でのんびり行こうと思っていた。
そんな時ギルドマスターが話があると言って来た。ゼロ達がギルマスの部屋に行くとまず聞いて来たのはこのままダンジョン踏破を続けたいかと言う事だった。
何故だとゼロが聞くと実は是非助けてもらいたい事が出来たので途中でダンジョン踏破を止められるだろうかと言う事だった。
ゼロはダンジョン踏破は別に今直ぐ続けなければならない事ではないが、その助けてもらいたい依頼と言うのは俺には関係ないので受ける義理はないと言った。するとギルマスはあんたに全く関係ない事もない話だと言う。
それは何だと言うと、実はソリエンのクリフトから手紙が届いたと言うのだ。その手紙によるとどうも「返らずの森」に異変が起きてるらしい。
本来森の奥にいる強い魔物達が外に出て来てるらしいので、その事情を探りたいので腕の立つ冒険者を送ってもらえないだろうかと言う話だった。
向こうで一番腕の立つのはクリフトだが彼レベルの冒険者は彼しかいない。それと最近腕を上げて来たBランクの冒険者パーティともう一つのBランクの冒険者パーティの二組しかいないらしい。
「おいおい、俺達はCランクだぞ」
「冗談はよせ、お前はクリフトに勝ったじゃないか」
「あれはクリフトの本気じゃないだろう」
「それでもお前が強いのは間違いないだろう」
「しかしな、ここからソリエンまでは遠いぞ、どうして行くんだ」
「それは何とかしよう。空を飛んで行けば1日、2日で着くはずだ」
「ワイバーンか何かに乗って行くのか」
「そうだ」
「ちょっと待ってくれ、ミレに聞いてみる」
「どうだミレ、お前はどうしたい。ここに残るか」
「そこって森」
「そうだ、俺がこっちに来て最初に住んだ町の近くにある森だ」
「なら行く」
「そうか行くか」
「行くそうだ」
「それは助かる、では足を用意する。それとこれはこちらからの依頼としても加えておこう。それとな例の件だがあれはやはり子供を誘拐する闇の奴隷商人達だったようだ。今詳しい事を調べてる。お前達が帰ってくる頃にははっきりするだろう」
「そうか、わかった」
こうしてゼロは再び「始まりの町、ソリエン」に向かう事になった。その腕を上げて来たBランクの冒険者パーティがカリヤス達だとも知らずに。
ギルマスは彼の知る召喚士に連絡を取ってワイバーンを召喚した。そしてそれに乗ってソリエンの町に行く事になった。
確かにワイバーンに乗れば1日で着ける。しかしミレは空を飛んだ事がないので終始震えていた。じゃーあの空中滑走は何だったんだと言いたくなる。
ゼロ達がソリエンに着いた時にはもう夕方になっていたので取りあえずは町の宿屋に泊る事にした。どっちみち明日からは森での野宿と言う事もあり得るだろうから。
ゼロが向かったのはかってゼロが世話になっていた宿屋だった。宿屋の親父さんはゼロの事をちゃんと覚えていてくれて喜んでくれた。
それに今度は子供を連れて来たのでお前さんのこ子供かと聞いので、いちいち説明するのが面倒だったのでそんなもんだと答えておいた。
「僕、ゼロの子供」
「おいおい、仮にだ」
「子供」
「おい」
翌朝ゼロ達はここの冒険者ギルドに向かった。中は少し騒然として色々な指示が飛び交っていた。そんな中でゼロの知ってる受付嬢がいた。
受付嬢もまたゼロを見つけて、まさかゼロさんですかと言って来た。ソレーユのギルドのマスターからの依頼の手紙を渡すと是非ギルドマスターと会って欲しいと言われた。そう言えばゼロはまだここのギルドマスターとは一度もあった事がなかった。
ギルドマスターの部屋のドアをノックしたら「どうぞ」と言う返事があったので受付嬢はゼロ達を中に案内した。
執務室のデスクにいたのは30半ば位の美しい女性だった。ただどっかで見た事のあるような。
「ゼロさんですね、はじめまして私がギルドマスターのキャサリールです。色々と兄がお世話になりました」
「兄?」
「私の兄はクリフトです」
「えっ、あのクリフトか」
「ゼロさんでも驚かれる時があるんですね」
「それはまぁ」
「そちらのお嬢様は」
「俺のパートナーのミレだ」
「パートナーですか、こんなにお若いのに」
「パートナー」
「はい、わかりました」
「それで今、状況はどうなってる」
キャサリールによると今は出られる人数で森の探索をしてる所らしい。ただ魔物が多いのであまり深くまでは行けてないらしい。
精々中心部から8割位外側辺りまでとか。これと言った特異点は見えないがそれでも普段見ない強い魔物が多くいるらしい。
「わかった俺もこれから出かけてみよう」
「その間、そのお嬢さんはお預かりしましょうか」
「大丈夫だ、こいつもCランクの冒険者だから」
「この子がですか、やはりゼロさん達は規格外なんですね」
そう言いながらキャサリールは目を細めてミレを見ていた。そして納得したようだった。