最新作39話 子育てと仕事の両立は大家族主義が解決の一策
ある大手物流会社のIT部門に勤めるキャリア女性が、育児休暇が終わって、子供を保育園に預けたということで、職場復帰したことから、「子育てと仕事の両立」の意見を聞くために面会しました。 開口一番、「両立は世の中で言われるほど大変とは思わないが、回りの目が気になります」と意外な気持ちの吐露に、「と言いますと」と聞き返すと「男性より女性が、皆に仕事を押しつけて」という目を感じると言います。 その女性は保育園に子供を迎えに行くため、短時間勤務の制度を利用していて、1時間半程度早く退社するため、仕事の幾つかを同僚女性に引き継がなければならず、そのたびにいやな顔をされると言います。 表向きは「子育ては大変ね」と理解してくれているものの、「だからと言って回りに負担をかけても良いというものではないよね!」と、口には出さないものの態度にありありと出ていると言います。 子育てと仕事の両立の無理解者は男性とばかり思っていましたが、案外同僚女性の方が理解していないことを教えられて、いよいよこの問題は根深いものがあると感じました。 もう30年も前になりますが、アメリカに出張した折、知人の中流階級のアメリカ人家庭にホームスティしたことがありますが、その家庭は祖父母と知人夫妻と3人の子供と言う家族構成でした。 先ず意外に思ったのは核家族ではなく三世代同居で、昼は祖父母と子供たちで過ごし、夜になると全員がそろって食事をし団欒をしていることで、戦前の日本の大家族の姿を見るようでした。 夜になると近所の人が訪れてきて、一緒にお喋りとカードを楽しんだりしていて、コミュニティもしっかりしている様子で、子供たちの疎外感は全く無く、親たちも子育てで頭を抱えるということもなさそうでした。 日本では子供が生まれると、すぐに子供を預ける保育園の入園に心身をすり減らし、入園出来て仕事に復職すると、今度は子供の送迎のために短時間勤務を申し出て、その後、回りに神経を使うということが起こります。 アメリカでも同じような問題があるのか聞いてみると、都市部の中には似たようなことがあると言いますが、総じて日本のような異常なことはなく、子育ては家族と地域社会で支えあっているとのことです。 日本がこのような事態になった原因の一つに核家族化があり、結婚と同時に親元から独立して夫婦で家を構え、やがて子供が生まれると、共働きでは子供を保育園に預けるしかなく、それが保育園不足を生んでいます。 保育園に預けて幼児期を切り抜けたとしても、学校に行くようになると今度は「鍵っ子」となって、親が帰ってくるまで自室にこもってテレビやゲームをして時間を過ごすことになり、孤独な人間を育むことになります。 こうしたことの先には、年をとると子供が家を出ていき、夫婦のいずれかが先立つと、家に一人残されて、いわゆる独居老人となり、人知れず生涯を閉じる孤独死が待つことになるようです。 現在は育児支援のために保育所を作り、独居老人のために老人施設を作ることで解決しようとしていますが、これに掛かる社会コストは莫大で、国民の複利に役立っているかどうかは疑問です。 戦後に欧米先進国の社会制度を取り入れてきた中で、一つ間違った理解をしてきたのは、個人主義と自由主義の体現としての核家族主義で、これがもたらす弊害が現在に至って、牙をむいているようです。 出来れば核家族主義から大家族主義に、また個人主義から集団主義に舵を切り直し、子供は世代間や隣近所で共助するようにすれば、社会コストも小さくて済むし、何よりも情意豊かな人間が育つように思います。人事賃金コンサルタント 上田松雲chambord_ueda@mediacat.ne.jp