母親の施設に行くと、みんな集まって何かやっています。
何だろう?と思って聞いてみると、「これから不在者投票するんです」とのこと。

でも、投票日は今度の日曜日、10月22日(日)です。
投票日より前に投票するのは、「期日前投票」じゃ?
みなさんは、「期日前投票」と「不在者投票」の違い、知ってますか?

期日前投票とは
市区町村の選挙人名簿に登録されている人が、仕事や旅行、入院、出産、冠婚葬祭、地域行事の役員などのために投票日当日に投票できないため、選挙公示日の翌日から投票日の前日までに投票すること

不在者投票とは
選挙期間中に仕事や旅行などによって、選挙人名簿に登録されていない市区町村に滞在している人が、選挙公示日の翌日から投票日の前日までに投票することです。
選挙人名簿に登録されている市区町村の選挙管理委員会に対し、直接か郵便で投票用紙などの必要書類を請求し、滞在先の選挙管理委員会で投票することを伝え、交付された投票用紙と投票用封筒、不在者投票証明書を持って、滞在先の選挙管理委員会で投票します。
不在者投票は、上記の他、選挙管理委員会が指定した病院・老人ホームなどに入院・入所中の人も投票できます。

母親の施設は、秋田市の選挙管理委員会から指定された「不在者投票」する場所になっていたのでした。

母親の順番になり、私は邪魔をしないように、遠くから見ていました。
施設では、小さな会議室を投票所にして、一人ずつ案内しています。(同時に部屋に入れるのは3人まで)
投票用紙を3枚渡し、壁に囲まれた場所で、衆議院選挙の比例代表、小選挙区、最高裁裁判官の信任投票という順番で記入してもらい、最期に箱に投票してもらっていました。本当の投票と一緒ですね。

部屋から出てきた母親に、私が「おつかれさまでした」と言うと、(全然疲れてないよ)という顔で、「うん」と返事しました。
だれに投票したの?と聞いても答えてくれませんでした。(たぶん、覚えていないから)

私は、母親の成年後見人をしています。
成年後見人がつくのは、事理弁識能力(判断能力)が欠く常況にある者です。(民法第7条
判断能力がないのに、選挙権があるの?と思った人、気持ちわかります。
成年後見制度が始まった2000年当時は、成年被後見人には選挙権はありませんでした。
しかし、ある障害者が国を相手取って起こした選挙権回復訴訟で、東京地裁が違憲判決を下したことをきっかけに、2013年に公職選挙法が改正され、成年被後見人の選挙権が復活しました。

選挙で投票することは、判断能力があってはじめてできる行為だと思います。
しかし、判断能力が常に欠けている人(=成年被後見人)にも選挙権はあります。
母親を見ていると、判断能力が常に欠けている人には見えません。

平成28年12月末現在で、後見類型の利用者は、 161,307 人います(平成29年内閣府の資料より)
この中で、本当の意味で判断能力が欠く常況の人は、どれぐらいいるのでしょうね。

家庭裁判所は、ご本人の精神の状況について鑑定をしなければ、後見開始の審判や保佐開始の審判をすることができません(家事事件手続法119条1項本文、133条)。
ただし、裁判官が 診断書を含む申立書類の内容を検討し、明らかに鑑定の必要がないと認めた場合は、鑑定をせずに審判をすることもあります(同法119条1項ただし書、133条)
昨年鑑定が行われたのは、10%を切っています。ほとんど鑑定は行われていないと言っていいでしょう。
法律上では、基本的には鑑定が必要で例外的に不要なのに、実際の運用では逆になっています。
すなわち、診断書だけでほぼ後見/保佐/補助の類型が決まっているのです。

今年3月に閣議決定された「成年後見制度利用促進基本計画」の中に、診断書の在り方を見直す、というのがあります。
現在、最高裁が中心になって、診断書のあるべき姿に関して、検討が進んでいます
近い将来、診断書のフォーマットが変更され、本当に判断能力が欠く常況にあると診断された人だけ後見類型となったら、後見類型になる人は、ほとんどいなくなる可能性があります。
最高裁の動きに、注目していきたいと思います。