ブーン・・
虫の羽音で目が覚めた。
時刻をみると、深夜3時半。
羽音の正体は、探さなくともすぐにわかった。
天井に勢いよくぶつかっている
1匹のカナブン。
・・・!!
声にならない声を上げながら、私は、部屋を飛び出した。
通常部屋にはいるはずのない存在。
しかし、私には心当たりがあった。
☆☆☆
その前日の夕方、
帰宅して、マンションのエレベーターに乗っている時だった。
何気なくエレベーター内の鏡を見ると、
背中にカナブンが1匹とまっていた。
別にカナブンごときを怖がる私ではない。
エレベーターが止まるのを待ち、
カナブンを刺激しないよう、そっとエレベーターをおり、
降りた瞬間に、背中を手で払った。
背中からカナブンが飛んでいった感覚は、正直なかった。
しかし、鏡を見ると、
背中にカナブンは見えなかった。
そのため、少しの不安を抱えながらも、
そのまま部屋に入った。
☆☆☆
ほぼ確実に、
あの時、エレベーターの中でみたカナブンが、
部屋までついてきた。
そして、深夜まで待ち、やつは活動を始めたのだ。
外で見るそれ(=カナブン)と、
部屋の中で見るそれは、全く異なるものだった。
普段の私なら、
カナブンなんて、もうかき揚げにしてカリッと美味しくいただくよ!!!
と言っていてもおかしくない。
>おかしいだろ
>森では素手
しかし、部屋の中にいるそれに対して、
私は無力だった。
その日の私の寝るときの格好は、
頭部以外の人体の枢要部のみを覆った面積狭めのものだったし、
>表現よ
武器もない。
☆☆☆
有効な逃し方がわからないまま、
そっと部屋を覗くと、
ついさっきまで私がかぶっていた掛け布団の真ん中に、
緑のそれがとまっていた。
終わった。
もう無理だ。
部屋をカナブンに乗っ取られ、
深夜、逃げ場がない、ということも相まって、
>玄関からどうぞ
さらなる混乱に陥った。
☆☆☆
ネットで「カナブン 部屋」などのワードで調べると、
部屋に入ったカナブンの逃し方がたくさん出てきた。
しかし、どれもこれも、
カナブンよりなのだ。
https://yakunitatsuchishiki.com/post-1087/
「カナブンは自らの意識で人間の部屋には入りません。」
「昼間であれば、洗濯物にくっついて休んでいたらそのまま取り込まれてしまっただけ。
そう考えてみたら、全然かわいいものですよね。」
どう考えてもかわいくない!!!!
「私達人間に害を与えるのであれば
考えなければいけませんが、
カナブンは間違いなく無実です。
みなさん、これだけは忘れないでください。」
なんかカナブン無罪になってる。
☆☆☆
無理無理無理、と言いながら、
カナブンの逃し方を調べているうちに、1時間以上が経過していた。
まだ、掛け布団にカナブンは止まっている。
早朝4時50分。
このままここで泣いていても、誰も助けてくれない。
戦うしかない。
食うか食われるかだ!!!
>食いも食われもしない
私は、重たい腰を上げて、掛け布団(カナブン付き)を持ち、
ベランダの窓を開けた。
そして、そこから、掛け布団を何回か振った。
すぐにカナブンは見えなくなった。
しかし、エレベーターの中で見た時もそうだった。
いくら見えなくなったからといって、
また、どこかに隠れているかもしれない。
何回掛け布団を振っても安心できなかった。
掛け布団の重みで、手も限界を迎えていた。
私は、
ベランダに、
掛け布団を置き、
窓を閉め、
カーテンも閉めた。
>まさかの
☆☆☆
自分でも無理だとわかっていたが、
1%の可能性にかけていた。
カーテンを開けて、
もしかしたら、
掛け布団ごと消えてないかな・・。
ドキドキしながらカーテンを開けた。
当然のようにさっき私が置いた掛け布団が目に入った。
>当たり前だろ
この掛け布団を購入したとき、
誰がこの未来を予想しただろうか。
私は、カナブン1匹のために、
掛け布団を捨てることにした。
>まじでどうかしてる
☆☆☆
掛け布団をゴミ袋に入れ、ベランダに置いたまま、
朝を迎えた。
一睡もできなかった。
そして、その日のうちに、
一流スーパーイオンで、
新しい布団を購入した。
羽毛布団を捨てたのに、夏用の布団を購入した理由は、
ないとは思うけど、
無理だとわかってはいるけど、
もしかしたら・・
今年は冬こないんじゃないか、という可能性にかけたからだ。
>やっぱりどうかしてる