こんにちは、詩人オウィディウスです。
すっかりご無沙汰してしまって申し訳ない。
これからまた、僕の作品をはじめとして
ラテン文学を少しずつ紹介していけたらと思うので、
改めてよろしくお願いします。
前回は、酒の席では恋が生まれやすいという話をしたけど
覚えているかな。
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そういう場では、若者がよく女性に心を奪われてしまう。
それに、酒中のウェヌスは火中の火ともいうべき存在だからね。
こうしたときのランプの灯はあてにならないから、あまり信用しちゃいけない。
夜と酒は、美しさを判断する目を狂わせる。
パリスだって、白昼の曇りのない空の下で女神たちを見たうえで、
「ウェヌスよ、あなたは他のお二方より優っておいでです」とウェヌスに言ったんだから。
夜は疵(きず)を隠し、すべての欠点を見逃してしまう。
こんな時間には、どんな女でも美人に見えるものだ。
宝石であっても、紫貝で染めた毛織物であっても、
女の顔かたちであっても、太陽光に照らして判断することだね。
(『アルス・アマトリア』1.243-252)
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「酒中のウェヌスは火中の火」っていうのは
酒の席で芽生えた恋は危ないよ、ということなんだけど、
そこには気を付けるべき理由がある。
それは、暗がりで見ると女性は実際より美しく見えてしまう、ということ。
日本語でも「夜目、遠目、笠の内」というそうだけど、それと同じだね。
美人をゲットしたいなら、夜の雰囲気に惑わされちゃいけないんだ。
パリスというのは、前にも少し話したと思うけど、トロイアの王子だ。
ウェヌス、主神ユッピテルの妻ユノ、知恵の女神ミネルウァの3人が
この中で誰がいちばん美しいかをめぐって争ったことがある。
その審査員に選ばれたのがパリス。
で、パリスはウェヌスが一番だと宣言したわけなんだけど、
ちゃんと昼間の光のもとで女神たちを見て決めたんだよね。
ちなみに、このときウェヌスはお礼として
彼を世界一の美女と結婚させると約束したんだ。
世界一の美女とは、当時のスパルタの王妃ヘレネだったから
パリスは彼女と不倫して、トロイアへ連れてきてしまった。
これがトロイア戦争の原因になった、というのは有名な神話だね。
紫貝というのは、正式な名前じゃなくて
生物学的にはアクキガイというらしいけど、紫色の汁を分泌する巻貝だ。
僕らの時代は、この汁を染料として使ったんだよ。
この色に染めた毛織物は高級品なんで、
買うときには品質を確かめなくちゃいけないわけ。
確かめるには、日光のもとできちんと見ること。
これは女性のルックスでも同じ、という話でした。
それじゃ、また次回。